学校からの帰り途、ビチェコの前にはあのマルチーニがいました。
「マルチーニ、一緒に帰ろう」
ビチェコがマルチーニに話しかけますと、マルチーニは嬉しそうに頬を赤くさせたのです。
「そういえば君は昨日も宿題をしてこなかったね。 何かあったのかい」
マルチーニは近頃のビチェコのことが心配だったのです。
昨日も今日も宿題をしてこなかったビチェコは、変に見えたのです。
ビチェコは昨日は誕生日のことを考えていて宿題ができなかったと云いました。
けれども、マルチーニには本当はそれは違うのだと分かっていたのです。
「別に何もないさ。 ただ昨日は宿題のことを忘れていただけなんだ」
ビチェコは本当のことを云おうとはしません。
「でも君はいいな、何においても優れているから」
ビチェコは話題を変えるようにマルチーニのことについて話しました。
「きっと学校も勉強も楽しいのだろう」
下を向きながら、ビチェコは云いました。
それを見ていたマルチーニには、どこか初冬の茫のように寂しい風に見えました。
そして二俣に分かれた橋の所までやってきました。
「じゃあビチェコ、また明日」
「うん」
ビチェコとマルチーニはめいめいの家へと帰って行きました。
ビチェコは走って丘を駆け上がっていきました。
橙の空の向こうで、お天道様がないていました。

 「ただいま」
ビチェコは勢いよく家の中へと入って来ました。
「おかえり、朝云った通り早く帰って来たね」
ビチェコのお母さんが臥榻から体を起こしながら云いました。
「うん、早くご馳走が食べたかったんだ」
「そうかい。 でもまだこしらえていないんだよ」
ビチェコのお母さんは、今日は一日床に臥せていたのです。
そう思いますと、ビチェコの胸はきゅんと冷たく鳴るのでした。

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