「すまないねぇ。 今日は早くから体の調子が悪くてどうしても体が動かせないんだよ」
ビチェコのお母さんは、さも辛そうに体を起き上がらせています。
それを見たビチェコはお母さんに云いました。
「お母さんは寝てて構わないよ。 僕がご飯をこしらえるから」
「そうかい。 そうしてくれるとうれしいねぇ」
ビチェコは、戸棚の中からトマトとアスパラガスを取り出しました。
家に帰ればご馳走が待っていると思ったビチェコは、いろいろな気持ちになりました。

 「お母さん、食べよう」
ビチェコは臥榻で寝息をたてているお母さんに云いました。
その声にお母さんは起き、ビチェコの作ったスープを食べ始めました。
「すまなかったねぇ。 今日はお前の誕生日だのに」
「平気だよ。 僕はお母さんに早くよくなってもらいたいんだ」
「そうかい。 それじゃあいただこうかね」
その日、ビチェコの家は、一日温かいスープのにおいがしていました。

 それからしばらくのことです。
今日は町の収穫祭。
ビチェコは心のどこかで体を踊らせながら、不安な気持ちがありました。
お母さんの体が今もまだよろしくないのです。
「今夜は収穫祭だねぇ」
「うん。 僕も行ってこようかと思うんだ」
「ああ、行っておいで。 お母さんなら心配しなくていいからね」
お母さんがそう云いますとビチェコは表へ出て行きました。
凍らせた氷の粒をばら撒いた風な天空に、ビチェコはたまらず口笛を吹いたのです。
そして一気に丘を駆け下り、橙や青や赤色の灯りが燈る街へ行きました。
そこでは、同級生の生徒の高い声が聴こえてきました。
そしてあのマルチーニの姿も見つけたのです。
マルチーニはいつものように顔を赤くさせてビチェコと話をしました。
紺の空の遠くに、青白い星がひとつまたたいている夜でした。

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