夕陽色のバカンス


 季節は真夏、いよいよ8月の到来です。
太陽が朝から容赦なく照りつけるこの日、みんなは千佳の家に集まっていました。
今日から3日間、アナちゃんちの別荘へ行くことになっているのです。
先々週の海の後、アナちゃんがお家の人に聞いてくれていたのです。
最初は反対した両親でしたが、雅博や信恵がいるということで許可したのです。
雅博は未だみんなの親御さんには会ったことはありません。
でも話に聞いていてアナちゃんのご両親は雅博を信頼していたのです。
今日も千佳の家の車で、雅博が運転していきます。
でも今日は今までと違って長距離移動です。
伊豆の先端、下田まで200km以上もあります。
これだけの距離を運転するのは、雅博も初めてのことです。
高速道路を使うことも、今回が初めてでした。

信恵「大丈夫、あんたならやれるさ」
雅博「うん……僕頑張るよ…」
美羽「よし、それじゃあロスへ向けて出発だー!」
信恵「いや行くのは県内だから」

全員車に乗り込み、いよいよ出発です。
今まで2回運転したこの車でも、矢張り今回の長距離にはプレッシャーを感じる雅博。
まだ若葉マークの雅博には、大仕事なのです。

雅博「じゃあ出発するね…」
千佳「うん、お兄ちゃん、頑張ってね〜」
美羽「事故るなよ〜」
雅博「だ、大丈夫…多分……」

雅博の自信の無い返事に、一気に不安になる5人でした。
途中、高速道路のサービスエリアで早めの昼食をとり、そして高速を降りました。

雅博「やっと沼津に着いたよ…」
千佳「え? 沼津って、お兄ちゃんの実家がある…」
雅博「うん、そう、ここだよ」
アナ「お兄さまって沼津に住んでらしたんですか?」
雅博「うん。 あそっか、アナちゃんにはまだ言ってなかったね」
アナ「あ、はい」
美羽「よ〜し、じゃあお兄ちゃんが追い出された町を見てやろうぜ」
雅博「いや追い出されたわけじゃないから…」

みんなは初めて見る町に目を丸くしています。
雅博は自分の生まれ育った町にみんなが来ることがなんだか不思議な感じがしているのでした。
高速を下りて暫く行くと雅博の実家が見えてきました。
と、同時に雅博は興奮していました。
そして家の見える道路脇に車を停めました。

雅博「みんな、あそこが僕の家だよ」
千佳「へぇ〜、あれがお兄ちゃん家なんだ〜」
信恵「ほぉ、結構キレイなんだな」
雅博「うん、新築してまだ10年経ってないからね」
茉莉「そうなんだ〜」
アナ「玄関前のお花がキレイですわね」
雅博「母親の趣味がガーデニングなんだ」
美羽「じゃ今日はここに泊まっていこっか?」
雅博「いや、アナちゃんち別荘行くんでしょ…」

みんなに実家を紹介したところで再び出発です。
また暫く走ってると街中に出ました。
駅前の道を通って行きます。
夏休みということもあってか、多くの人が商店街を歩いていました。

美羽「なんだ、沼津って浜松に比べたら犬小屋みたいなもんだな」
雅博「犬小屋かよ……」

そんなやりとりをしながら、雅博は車を走らせました。
ビルの合間からのぞく陽光が、とてもまぶしく車内を照らしていました。
クーラーを効かせても、この暑さではあんまり役に立っていません。
そんな中、何とか海にまで出ることができました。
けれども、みんなを待ち受けていたのは長い長い渋滞。
この時期になるとこの道は伊豆へ行く車でとても込むのです。

美羽「ねえ〜、まだ着かないの〜?」
雅博「うん、渋滞で全然動かないから」
信恵「この調子じゃあ今日は泳げそうにないなぁ」
千佳「えー!!」
美羽「何でだよ〜! それじゃあ行く意味ないじゃん」
信恵「しょうがないだろ、この渋滞じゃあ」
雅博「明日もあるんだから明日泳ごうよ」
美羽「だって今日も泳ぎたいもん」
千佳「みっちゃん、しょうがないよ…」
美羽「ちぃちゃんはここで妥協していいのかよ!?」
千佳「妥協って……渋滞じゃあどうしょも無いでしょ…」
美羽「むぅ〜……全く、みんな休みの日くらい家にいろってんだ…」
信恵「じゃあお前も家にいればよかっただろ」
美羽「あたしはいいの、特別だから」
雅博「あっ、動いたよ!」
美羽「えっ! ホント!?」

美羽が顔を乗り出して前方を見ました。
ゆっくりですが、確かに少しずつ進んでいたのです。
朝早かったこともあって、すっかり夢見心地の茉莉ちゃんとアナちゃん。
2人は渋滞があったことなんて、全く知ることは無かったのです。


 それから1時間余り。
天城峠を越える途中でトイレ休憩で車を停めました。

千佳「ん〜!!」
信恵「あ〜、長時間座ってたから腰が痛くなっちまった…」
茉莉「……あれ…?」
アナ「あ、茉莉さん、起きました?」
茉莉「う、うん……もう着いたの…?」
雅博「ううん、あともうちょっとだよ。 今トイレ休憩だからトイレ行って来ていいよ」
茉莉「あ、うん……」
アナ「では茉莉さん、行きましょうか?」
茉莉「うん」

まだ寝ぼけ眼の茉莉ちゃんはアナちゃんと一緒に車から降りてトイレへ向かいました。
車内にはアナちゃんと入れ替わるようにすっかり寝入ってしまった美羽がいます。
車の窓に頭をもたげて小さな寝息をたててる美羽。
その寝顔からは、いつものイタズラな美羽を垣間見ることは出来ないほど可愛らしい寝顔でした。
運転席からミラー越しに見てにっこりと微笑む雅博でした。
全員が戻ると、再び車を走らせました。
午後の陽光が、清々しい天城峠の空気をキラキラ光らせていました。


 時刻は午後4時前。
ようやく長旅から解放された6人。
倒れこむように車から出てきました。

雅博「つ、着いた……」
信恵「長時間ご苦労だったな…」
千佳「お兄ちゃん、ご苦労様〜」
雅博「うん…ありがと……」
美羽「よーし! 泳ごうぜ!!」
信恵「いやもう今日は無理だ」
美羽「ちぇっ、折角海に来て泳がないなんて…パブロフの犬だよ」
信恵「……意味分からんよ」

目の前には、アナちゃんちの別荘がありました。
普通の一軒家ぐらいの大きさがあります。
目の前は水平線を臨む一面のオーシャンビュー。
みんなは長距離移動の疲労も忘れてそのキレイな海を眺めていました。

茉莉「海、キレイだね〜」
千佳「うん、すごくキレイだよね〜」
雅博「来た甲斐があったって感じだね」
アナ「みなさん、今鍵開けてきますね」

そう言うとアナちゃんは小走りで駆けて行きました。
無事にたどり着いたこの地。
アナちゃんちの別荘。
雅博をはじめ、みんながこれから始まろうとしているワクワクに胸躍らせていました。
夕陽に変わった太陽が、崖下の波音を一層キレイに引き立てていました…。


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