暗闇の選択肢


 信姉たちは、ゆっくりと森へ続く道を歩いていました。
振り返ると、そこはもう目の前が真っ暗闇です。
茉莉ちゃんとアナちゃんは信姉に寄り添うようにしています。
ひんやりとした森の空気に、信姉も少し不安になっていました。

茉莉「お姉ちゃん…怖いよぉ〜……」
信恵「だ、大丈夫だよ…何もいないから。 …やっぱアナちゃんも怖いんだ…」
アナ「えっ!? あ、えと…そ、そんなことは……」
信恵「そんなやせ我慢しなくてもいいよ…」

怖くないとは言っても実際肝試しとなるとやっぱり怖いアナちゃんでした。
一方雅博たちは…

千佳「お姉ちゃんたち行っちゃったね…」
美羽「よし、じゃあ帰るか」
千佳「なんでやねん…」
美羽「だってここにあたしたちが居ないって知ったらびっくりするじゃん?」
千佳「そりゃそうだろうけど……それでそうするの?」
美羽「肝試しはやっぱり怖がらせてあげないと」
雅博「そんなんで怖がるかな〜?」
千佳「それに次は私たちの番でしょ?」
美羽「サボタージュだよ、サボタージュ」
千佳「いや意味分かんないし…」
美羽「え? サボタージュ知らないの? サボるって意味だよ?」
千佳「いやだからそうじゃなくて何をサボるのかってこと」
美羽「もぉ〜、ちぃちゃんのいけず〜」

暗闇の中、美羽と千佳の問答が続きました。
雅博は微笑ましいその光景を笑って見ていました。
そして、信姉たちはどうやら無事に神社に到着したようです。

信恵「よ〜し、着いたよ〜」
茉莉「うん…よかった……きゃあ!!」
信恵「茉莉ちゃん、それ狛犬だから怖くないよ」
茉莉「え? あ……ホントだ…」
アナ「でもよく出来てますわね」
信恵「よく出来てるって、アナちゃん狛犬の本物って見たことあるの?」
アナ「いえ、ありませんけど…。 狛犬っていうイヌがいるんじゃないんですか?」
信恵「いや、狛犬ってのは神社を守ってる門番みたいなので実際にはいないんだよ」
アナ「あ、そうなんですの?」
信恵「うん、でもモデルになったイヌはいるんだけどね」
アナ「へぇ〜…」
茉莉「お姉ちゃん…写真……」
信恵「あ、そうだった…ゴメン。 じゃあ写真撮ろうか」

信姉は当初の予定を思い出し、ポケットから携帯電話を取り出しました。
そして狛犬の前に茉莉ちゃんとアナちゃんを立たせ、写真を撮りました。
懐中電灯とフラッシュの光だけでは、上手く撮れませんでした。
けれどもなんとかぼんやりとした中に2人と、そして狛犬が写っていました。
3人が帰ってきたのはそれからしばらくしてからでした

信恵「じゃあ次はあんたらの番だな」
美羽「おう、あたしたちのバンダナ」
信恵「分かりにくいボケはやめろ」
千佳「茉莉ちゃん、怖かった?」
茉莉「うん…すごく怖かったよぉ…」
アナ「でも3人一緒だったので楽しかったですわ〜」
雅博「そっか〜、じゃあ僕たちもそろそろ行こうか?」
千佳「うん、お兄ちゃん…頼りにしてるよ…」
雅博「分かってるよ、2人は僕が守るから」
信恵「じゃあちゃんと狛犬の前で写真撮ってくるんだぞ」
千佳「うん、分かった〜」
茉莉「みんな、頑張ってね…」
アナ「気をつけてくださいね」
美羽「みんな頑張れよ〜」
信恵「お前も行くんだよ」

3人はこうしてスタートしました。
手には頼りない懐中電灯が一本。
この光だけで神社までたどり着かなければなりません。
ざわめく森の音が、3人を一気に不安にしていました。
雅博の両腕には、早くも2人が寄り添っていました。

千佳「お兄ちゃん…怖いよ……」
雅博「大丈夫だよ、僕がついてるから…」
美羽「頼りにしてるよ、お兄ちゃん」
雅博「う、うん…」
千佳「でもここ、本当に暗いよね…」
雅博「そうだね…これだけ暗いと何か出そうだし…」
千佳「ちょっ、お兄ちゃん……怖いこと言わないでよ…」
美羽「ちぃちゃんってお化け大の苦手だもんね」
千佳「そうそう、私って……って、顔の下から懐中電灯当てるな! びっくりした〜…」
雅博「ハハ、それやると怖くなるよね〜」

3人で楽しくお喋りしながら歩いているので怖さも軽減されてきました。
怖いと思うから怖い、その理論は確かなようです。
怖くないと思えば怖くなくなるのです。
そして3人がしばらく歩くと、分かれ道に差し掛かりました。

千佳「ねえ、これどっち進めばいいのかな〜?」
雅博「ん〜、どうだろ…立て札とか無いから分からないね…」
千佳「お姉ちゃんどっち行けばいいのか教えてくれてもよかったのに…」
美羽「この先にお宝があるんじゃない? だから教えてくれなかったんだよ」
千佳「いや、それはないだろ…」
雅博「でも困ったね、どっち行こうか…」
美羽「じゃあサイコロで決めようぜ!」
千佳「サイコロって…なんでそんなもん持ってるの…?」
美羽「いや、ポケットの中に入ってた」

美羽は持っていたサイコロを天高く放り投げました。
そして地面に落ちて、コロコロと転がっていきました。

美羽「えっと…4だから……こっちだ!」
千佳「何で…どうして4だとそっちなの?」
美羽「ん? なんとなく。 この4がこっちへ行けって言ってたから」
千佳「あそ…」
雅博「何だそれ……」
美羽「じゃあ、行くぞ、みんな!」
千佳「はいはい…」
雅博「ホントにこっちでいいのかなぁ…?」
千佳「さぁ……まあここはみっちゃんに任せよ」

3人は右の道へと進んでいきました。
けれども、進めど進めど神社は見えてきません。
どんどん森の奥へと入っているような感じがするのです。
3人はさすがにおかしいと思い始めていました。

千佳「みっちゃん、こっちじゃなかったんだよ…」
美羽「そうかなぁ…確かにサイコロはこっちだって言ってたし…」
雅博「まだ言ってる…」
千佳「ねえ、戻った方がいいんじゃない?」
雅博「そうだね、戻ろうっか」
美羽「甘いぞ君たち!」
千佳「は?」
美羽「ここで戻ったとしたらこの先に何が待ち受けてるのか分からないままじゃん」
千佳「うん、だから?」
美羽「ここはこの道を進んだ方がいいと思う」
千佳「じゃあみっちゃんだけ一人で行きなよ。 私とお兄ちゃんは戻るからさ」
雅博「うん、じゃあね、美羽ちゃん」
美羽「ちょっ、ちょっと待ってよ……一人にするな!」

来た道を引き返す3人。
美羽も矢張り一人でいるのは怖いのでした。
すっかり怯えた様子になって雅博にくっついています。
3人の肝試しはまだ終わりません。
この先、3人を待ち受けてるものは果たして…。


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