想いではいつまでも


 その後も2人は暫く川原に座っていました。
ちょっと話をしたり、何もしないで川を見つめていたり。
それだけで幸せだったのです。
と、その時、誰かがテントから出てくるのが分かりました。
振り返ってみると、それは信恵でした。
雅博と千佳は慌てていました。
2人きりでいるところを見られるのは恥ずかしかったからです。

千佳「あ、お、お姉ちゃんおはよう…」
信恵「おう。 そのままでいいよ」
千佳「えっ?」

千佳はきょとんとした顔をしていました。
昨日雅博から聞いて付き合っていることを聞いて離れようとしていた2人を止めたのです。
そして信恵も川原に座りました。

信恵「あんたら、付き合ってるんでしょ?」
千佳「えっ!? な、何で…?」
信恵「昨日そいつから聞いたんだ」
千佳「えっ!? お兄ちゃんから…?」
雅博「ゴメン…言っちゃった……」
千佳「え……そうだったんだ……」

千佳は信恵に付き合っていることを知られて戸惑っているようです。
そんな千佳に信恵は言いました。

信恵「でも意外だったな〜、千佳が男と付き合うなんて……」
千佳「そ、そう…?」
信恵「でもまさか妹に先を越されるとは…しかも小学生の……」

そう言うと信恵はうなだれてしまいました。
さすがに小学生の妹に先を越されるとは思ってなかったのでしょう。

千佳「お姉ちゃん…大丈夫だよ……そのうちいい人見つかるよ…」
信恵「まぁそんなに気にしてないから別にいいけどさ」
雅博「そうだよ、僕だって22年生きてて初めて彼女ができたんだから」
千佳「それもどうかと思うが…」
雅博「うっ……」

今度は雅博がうなだれてしまいました。
その姿を見た千佳と信恵は自然と笑みがこぼれるのでした。
遠くで啼くカッコウの声が、どこか楽しげでした。


 それから美羽や茉莉ちゃんやアナちゃんも起き出してきました
みんな揃ってすぐに簡単な朝食をとりました。
そして食後にちょっとその辺を散歩したり川で遊んだりしました。
みんな存分に楽しんだようです。
そしてテントを畳み、帰りの支度も終わりました。

信恵「よ〜し、じゃあ帰るか」
千佳「お兄ちゃん、また運転お願いね」
雅博「うん、任せてとけ!」
美羽「ウインクしてガッツポーズって……ダサッ…」
雅博「……反省してます…」

雅博は顔を紅くしていました。
無駄にテンションを上げていたことに反省していたのです。
そして荷物を車に積んで、楽しかったキャンプ場を後にしました。
車内は楽しい空気に包まれていました。

千佳「楽しかったね〜、キャンプ」
茉莉「うん、ちょっと疲れたけどすごく楽しかったな〜」
アナ「湖もキレイで良かったとてもですわ」
美羽「でも2人は早く寝てたのにホントに楽しかったのか?」
茉莉「うん、寝る時にお姉ちゃんが色々お話してくれたし」
美羽「え!? お姉ちゃんが? ねえ、どんな話したの? お姉ちゃん!」
信恵「ん? 内緒だ」
美羽「えー? 教えてくれよー」
信恵「茉莉ちゃん、アナちゃん、教えちゃダメだからね」
茉莉「あ、うん…」
アナ「分かりましたわ」
美羽「なんだよそれ〜」

雅博はそのみんなのやりとりを笑いながら聞いていました。
みんなの話し声は運転の妨げになることもありましたが、何とか無事に帰ることができました。
そして……

雅博「あ〜、疲れた……」
千佳「ご苦労様〜」
雅博「じゃ荷物出しちゃおう」

みんなは手分けして荷物を降ろしました。
テントや寝袋、調理器具やゴミと、トランク一杯に積まれていました。
それぞれ持ってきたものを分ける作業も伊藤家の駐車場でやっていました。

信恵「アナちゃん、帰りもあたしが一緒に荷物持って行ってあげるから」
アナ「あ、はい、ありがとうございます」

雅博はその瞬間、ピーンときました。
ここは自分の株を上げるチャンスだと思ったのです。

雅博「あ、ねえ、僕が持ってあげようか?」
信恵「え? あんたいいのか?」
雅博「うん、荷物持ちは慣れてるからね」
信恵「どうする? アナちゃん、こいつが持ってくれるってけど」
アナ「あ、私は構いませんわ」
信恵「そっか。 じゃああんたに頼むわ」
雅博「うん、了解〜」
アナ「あ、じゃあお願いします」

アナちゃんは雅博に一礼しました。
礼儀正しいアナちゃんらしいです。

信恵「じゃあここで解散でいいか」
千佳「うん、いんじゃない?」
信恵「じゃあみんな、気をつけて帰れよ」
美羽「あたしは気をつけるまでも無いが」
信恵「あっそ。 そうだ、明日も休みだからもし暇ならみんなうちにおいでよ」
茉莉「うん」
アナ「はい、分かりました」
雅博「うん、僕も行くよ」
美羽「言われなくても行くつもりだよ」
信恵「いや、お前は来るな」
美羽「うぅ〜、差別だ〜」

そして解散になりました。
家が同じ方向の茉莉ちゃんとアナちゃんは雅博と一緒に帰途に着きました。
荷物持ちはもちろん雅博です。
茉莉ちゃんの分まで持ってあげました。

雅博「それじゃあ行こっか?」
茉莉「はい」
アナ「よろしくお願いします」

3人はまだ夕焼け前の住宅街を歩いて行きました。
そんな雅博の姿は、妹の面倒を見るいいお兄ちゃんでした。
さわやかな風の抜ける住宅街のスズメが、その3人をいつまでも見つめていました…。


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