夢幻の霧


 その後、雅博は暫く川原に座っていました。
一人で色々と考えていたのです。
キレイな空気が、いつしかそんな雅博の心までキレイにしていました。
そして徐に立ち上がり、テントに戻っていきました。

千佳「あ、お兄ちゃん、お帰り」
雅博「うん、ただいま」
美羽「お兄ちゃんどこ行ってたの?」
雅博「川原でちょっと夢見心地になってたんだ」
美羽「夢見心地? なんだーそれ?」

美羽はなんだか分からないというような顔をしています。
雅博は適当な場所に座りました。
そんな雅博はにこにこ嬉しそうです。

千佳「お兄ちゃん何かいいことあったの? すごく嬉しそうだね」
雅博「え、あうん、ちょっとね」
美羽「何だか気色悪いな〜」

千佳はにこにこしている雅博を見てなんだか自分まで幸せな気分になるのでした。

雅博「あ、そういえばお姉ちゃんは?」
千佳「あー、なんかもう寝るって行ってテント戻ったよ」
雅博「そうなんだ。 じゃあ僕たちもそろそろ寝ようか?」
千佳「う〜ん、そうだね。 起きてても特にすることも無いし」
美羽「えー? もう寝るの? まだ眠れないよ〜」
千佳「でも何するの? 起きててもすること無いじゃん」
美羽「暴露でも話しようよ〜」
千佳「いや、あんたはまともに話してくれなかったじゃん…」
美羽「ちぇっ! もう寝るのか…」

美羽は寝るのに抵抗を示していましたが、2人が寝る準備を始めるとしぶしぶ美羽も準備を始めました。
歯磨きをしたり寝袋を出したり。
そしていよいよ就寝の時間です。
雅博はテント前で煌々と燃えていたかまどの火を消しました。
そしてテント内のランタンの灯りも消して床に着きました。

雅博「じゃあおやすみ」
千佳「おやすみ〜」
美羽「夜這いかけてくんなよ」
雅博「かけないって…」
千佳「………」

美羽の最後の一言でみんなは静かになりました。
すると、テントの外から虫の声や川のせせらぎが聞こえてきました。
大自然の子守唄は、みんなをいつしか深い眠りへと誘っていきました。
テントの天窓から遠く近く星が瞬いていました。


 4時半……
雅博が目覚めた時にはまだ外は薄暗く、霧がかかっていました。
眠りから覚めた雅博は新鮮な空気を吸いに外へ出て行きました。
辺りを包む霧が、幻想的な雰囲気をかもし出していました。
雅博は昨日の川原に座りました。
川原の小石は冷たく、寒い空気をさ更に寒く感じさせていました。

雅博「う〜、寒っ……」

日の出まではまだ時間があります。
とりあえずここで少し眠くなるまでいることにしました。
普段とは違う朝。
霧がかった小川で迎える朝。
千佳をはじめみんなで来たキャンプで迎える朝。
この空気を、雅博は思いっきり吸い込みました。

雅博「ん〜、いい空気だな〜」
千佳「ねえお兄ちゃん」
雅博「っ!?」

雅博はドキッとしました。
振り向くとそこには千佳がいました。

雅博「千佳ちゃん…起きちゃった?」
千佳「うん…お兄ちゃんが出てくのが分かって私も来ちゃった…」
雅博「じゃあここ座る?」
千佳「うん…」

千佳はちょっと恥ずかしそうに頷きました。
雅博のすぐ隣に座る千佳。
その距離は自然と近づいていました。
雅博はそれとなく千佳の手を握りました。
それに気付くと、千佳も握り返してきました。

雅博「すごい霧だよね」
千佳「うん。 やっぱ山だから霧とか多いんだね」
雅博「千佳ちゃん寒くない?」
千佳「あ、うん、大丈夫だよ」

千佳の体は、自然と雅博の体にもたれかかっていました。
小川の清らかな流れを見つめる2人。
何も言わずに、お互いの気持ちは体温で通じていたのです。
日の出までのわずかな時間が、2人だけの夢幻の時だったのでした…。


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