想い出を西日に


 湖面は春光が反射し、キラキラと光り輝いていました。
春風に立つ小波(さざなみ)が、2人のボートを押していきます。
雅博は更に推進させるようにオールを漕ぎ始めました。

千佳「あっ、動いた!」
雅博「よ〜し、じゃあスピードあげるよ」

雅博は千佳にいいとこを見せようといきり立ちました。
オールを漕ぐ力を強め、どんどんとスピードを上げていきます。
千佳は楽しそうな顔をしています。

千佳「お兄ちゃん、漕ぐの上手いね〜。 ボートとかやってたの?」
雅博「ううん、今日乗るのが初めてだよ」
千佳「そうなんだ。 やっぱお兄ちゃんってすごいなぁ〜」
雅博「はは、そうかな? よ〜し、じゃあもっとスピード上げるよ〜!」

雅博はオールを漕ぐのを一層速くしました。。
すると、みるみるうちにボートが速くなっていきました。

千佳「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん! 速すぎるよ〜!」
雅博「大丈夫だよ、別に周りに誰もいないし」
千佳「そういう問題じゃ……って! お兄ちゃん後ろ!!」
雅博「えっ? 後ろ…?」
千佳「きゃー!」
雅博「うぐわっ!!」

『ドカーーン!!』 2人のボートは近くにいた別のボートにぶつかってしまいました。
勢いよくぶつかったので、2人とも姿勢を崩してしまい、今にも湖に落ちそうになってしまいました。
ぶつけられた方のボートのカップルも、今にも落ちそうな状態になっていました。
でも幸い、湖に落ちることは免れました。
安堵の溜息をついていると、ぶつけられた方のボートに乗っていた男が怒鳴ってきました。
雅博はただひたすら謝るしかありませんでした。
千佳も一緒に頭を下げて謝りました。
そしてなんとか許してもらい、その場を離れたのです。
それからはさすがに大人しくなった雅博。
千佳は情けない雅博の一面を見て、心の中で笑っているのでした。
まったりとした春の湖。
湖面に漂うボートが一隻。
2人は先ほどのトラブルも忘れてすっかりいい雰囲気になっていました。

千佳「ん〜、なんかのんびりしてていい気持ち〜」
雅博「そうだね〜、学校のこととかすっかり忘れられるね」
千佳「うん。 ずっとこうしてたいな〜」
雅博「僕も…。 千佳ちゃんとずっとこうやってたい……」

雅博は千佳の隣に座ると、手を握りました。

千佳「お兄ちゃん……みんな見てるよ…」
雅博「大丈夫だよ、みんなボートに乗ってるのはカップルばかりだもん」
千佳「え……そ、そうなの…?」
雅博「うん! だから僕たちもみんなにそう見られてるよ、きっと」

その言葉に、千佳は恥ずかしそうにしていました。
もうすっかり恋人同士になってしまったことに、まだ少し抵抗があるようでした。
そしてその後はのんびり春風の下、湖の孤島で2人で語り合いました。
湖面近くに舞うつがいのモンシロチョウが、2人を祝福しているようでした。


 その後、近くのファミレスで昼食をとりました。
ここでもやっぱり楽しくお喋り。
ドリンクバーも注文し、食後もたっぷりと色々なお話をしました。
お互いのこと、友達のこと、家族のこと、テレビのこと、将来のこと…。
恋人とのお喋りというより、歳の離れた妹とのお喋りという感じ。
雅博はそんな妹のような千佳に、兄としての意識も持ち始めているのでした。
そしてそろそろ陽も傾き始める頃、2人は帰途に着きました。
来た道を歩いて帰ってゆきます。
その道中も、やっぱり楽しく会話をする2人でした。
そして、まだ早いので雅博は夜になるまで千佳の家で遊んでいくことにしました。

千佳「ただいまー……って、みっちゃん来てたの?」
美羽「うん。 ちぃちゃんに会いたくて徹夜組してたの」
千佳「なんでやねん…」

千佳の部屋には既に美羽が来ていました。
信姉と一緒にゲームをしています。
千佳はベッドの上に座り、雅博は床に座りました。
そしてなんとなく美羽と信姉のゲームを見ていました。

信恵「そういや、あんたらどこ行ってたんだ?」
千佳「あ、うん、ちょっと佐鳴湖の方まで…」
信恵「はっ!? 佐鳴湖って……ちょっと行くような距離じゃねぇだろ…」
雅博「僕が誘ったんだよ。 散歩がてらお昼も一緒に食べようってね」

ちょっと困っていた千佳に助け舟を出すように雅博が言いました。
信姉は雅博の言葉になんとか納得したようです。

信恵「ふ〜ん………あっ! てめっ! 卑怯だぞ!!」
美羽「卑怯もらっきょうも無い! ボン○ーマンのバトルの基本は待ち伏せなのだ!」
信恵「またそれかよ……。 まあいい、目には目を、歯には歯をだ!」
美羽「わっ! お姉ちゃん卑怯だぞ! みそボンの分際で本戦に参加するなよ!」
信恵「お前のやったことをそのまま返しただけだ」

熱の入った熱いバトル。
そんな2人の姿を見て、雅博と千佳はお互い笑みをこぼすのでした。
室内に響くゲームの音。
それと共に交錯する美羽と信姉の叫喚の声。
うるさい部屋の中で、雅博は将来のことを考えていました。
いずれは千佳と結婚……。
付き合って2週間目の今、そう思うようになっていました。
そして西日に照らされる千佳の顔を、さりげなく見つめていました。
その西日は、いつしか遠くに沈んでいきました…。


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