夕陽色の残り香


 3人が見ていたのは少女漫画のサイトでした。
なんとも小学生の女の子らしいと思う雅博でした。

千佳「あれ? お兄ちゃん終わったの?」
雅博「うん、みんなパソコンに夢中になってたから集中できたんだよ」
美羽「じゃああたしたちのお陰ってわけか」
雅博「まあそれもあるかな?」
美羽「じゃあ何かお礼の一つや二つもらえるんだね?」
雅博「え…? …じゃあアイスでよければあげるよ」
美羽「ほんと? やったね、ちぃちゃん」
千佳「え…何で私なのよ?」

そう言うと雅博は冷凍庫からお徳用アイスを4本出しました。
ミルク味のアイスです。

雅博「はい、一人一本ね」
美羽「え〜? 雪見だいふくじゃないの?」
雅博「じゃあいいよ、僕が美羽ちゃんの分も食べるから」
美羽「別に食べないとは言ってないじゃんかよ〜」

そう言いながら美羽はアイスを食べ始めました。
そこはまだ子供です。
目の前にアイスがあってみすみす逃すようなことはしないのです。
千佳も茉莉ちゃんも雅博も、アイスを食べ始めました。

千佳「ん、美味しいねこれ」
茉莉「うん。 牛乳は苦手だけどこれなら食べられるよ」
雅博「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
美羽「ってかあんたはこれ買っただけだろ」
雅博「っ…痛いとこ突くね……」

雅博は笑って言いました。
3人の女の子は美味しそうにアイスを食べています。
雅博はその様子をちらちらと見ていました。
雅博にはそのアイスを舐める女の子の姿が、いやらしく映ったのです。
変な想像をしてはにやける雅博。
そこは相変らずの雅博でした。


 楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまいました。
もうすっかり夕方になり、女の子たちは帰る時間です。

千佳「そろそろ帰ろうか?」
雅博「え、もう帰っちゃうの?」
千佳「うん、だってもう5時になるし」
雅博「そっか……じゃあ明日千佳ちゃん家行っていい?」
千佳「明日? 学校が終わってからならいいけど。 多分3時過ぎだよ?」
雅博「あ、うん。 それでもいいよ」
美羽「なんだよ、ホントにちぃちゃん家入りびたりだなぁ〜」
雅博「いいでしょ別に…。 仲良くなったんだから」
美羽「そんなこと言って。 ホントはあたしたち以外に友達いないからだろ?」
雅博「………図星です…」

頭を垂れて反省のポーズをする雅博。
その滑稽な姿を見てみんな自然と笑みがこぼれました。

千佳「じゃあお兄ちゃん、また明日〜」
茉莉「おじゃましました」
美羽「早く友達つくれよ」
雅博「バイバイ、気をつけて帰ってね」

バタンと玄関の戸が閉まりました。
外で遠ざかってゆく彼女たちの黄色い声。
雅博は誰も居なくなった部屋を見て、哀愁を感じていました。
それとシンクロするように、丁度西日が橙色に射していました。
雅博はふぅと軽い溜息をつき、散らかった部屋を片付け始めました。
彼女たちの食べたアイスの棒や包装紙、ジュースの残り。
ふと彼女たちの食べたアイスの棒を舐めてみようと思いましたが、思い留まりました。
さすがにそれは雅博でも気が引ける行為でした。
彼女たちの見てない所でそのような変態的な行為をする程落ちぶれてはいません。
彼女たちを裏切るような行為は、雅博には出来ないのでした。


 そして、雅博が片づけを進めていると何かおかしなことに気付きました。

雅博「無い……秘蔵の本が……まさか!」

そうなのです。
美羽に発見されてしまった雅博の秘蔵のH本が無いのです。
普段入れてあった本棚にも、ベッドやコタツの下にも、どこにも見当たらないのです。
けれども雅博には心当たりがありました。

雅博「もしかして美羽ちゃんが…?」

雅博は美羽が持っていったのではないかと思ったのです。
そういえば部屋にいたときはずっとお腹の辺りを押さえていた気がします。
お腹のところに隠していたのかもしれません。
雅博は複雑な思いでそう考えていました。
でも今から取り返しに行くというのもどうでしょうか。
まだ美羽が持っていったというのも本当かどうか分かりません。
そんな疑いを彼女たちに向けるのは気が引けたのです。
そしていつしか部屋の片付けも終わり、いつもの日常に戻りました。
雅博は、彼女たちの残した甘い香りをいつまでも楽しんでいたのでした。


      前へ  一覧  次へ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送