想いを君へ


 次の日、雅博は朝から大学へ行っていました。
でも講義を聞いても考えるのは彼女たちのことばかり。
殊に千佳のことを考えると全然身に入らないのでした。
そして午後は講義がありません。
雅博はうきうきして帰途に着きました。
今日は生憎の雨。
自転車通学の雅博にはちょっと鬱陶しい雨ででした。
けれども、千佳のことを考えるとこの雨もそんなに気になりませんでした。
そして時刻は午後2時半。
ちょっと早いけど雅博は待ちきれずに家を出ました。
そして歩いて千佳の家へ向かいます。

 『ピンポ〜ン』

聞きなれた音が家の中で響きました。
そして……

千佳「あ、お兄ちゃん、早いね」
雅博「うん、千佳ちゃんに早く会いたくて…」
千佳「……え…えと…あ、上がって……」
雅博「う、うん……お邪魔します…」

玄関先で気恥ずかしくなる2人。
そしていつものように千佳の部屋に通されました。

千佳「今日は雨で来るの大変だったでしょ?」
雅博「ううん、そんなことないよ。 千佳ちゃんのことを思うと雨も苦にならないよ」
千佳「……もう、お兄ちゃんそういうこと言わないでよ…恥ずかしいんだから…」

千佳はちょっともじもじしながら恥ずかしそうに言いました。
やっぱりそのようなことを言われるのは恥ずかしいのです。

雅博「ゴメンゴメン……。 ところでお姉ちゃんはまだ学校?」
千佳「うん。 今日は遅くなるとか言ってたから6時過ぎると思うよ」
雅博「そうなんだ…」
千佳「………お兄ちゃん、またエッチなことするの…?」
雅博「えっ…!?」

千佳に言われて、ドキッとする雅博。
今日雅博が来た目的の一つにそれは挙げられるのでした。
この少女に出会って覚えた快感。
その快感が忘れられず、また千佳とエッチなことがしたいと思っていました。
けれども、今の雅博は純粋な恋心を抱いていたのです。

雅博「ううん……それより…手…つないでくれないかな…?」
千佳「……手つなぎたいの…?」
雅博「うん…」

雅博は恥ずかしげに千佳を見て頷きました。
雅博は千佳と手をつないだことがあります。
昨日一昨日のお泊りで寝るときにつなぎました。
その感触が、今でも忘れられないのです。
雅博が本当に求めていたのは、心のつながりだったのです。
決していやらしいことでもエッチなことでもありません。
健全な恋愛の最初の段階、手と手の触れ合い。
千佳の小さく温かい手。
他の異性は握ったことが無いであろう無垢な手。
そんな千佳の手を、独り占めしたい、そう思っていたのです。

千佳「それならいいよ…」
雅博「ありがと……」

ベッドの上に座っていた千佳の隣に座る雅博。
そして、千佳の右手をそっと握る。
千佳もその雅博の左手にエスコートされ、互いに手を絡め合いました。
温かな、優しい千佳のぬくもり。
守ってあげたくなるような、小さな手。
幼稚園児くらいの小さな手とも、大人の女性の手とも違う、千佳の手でした。
そして暫しの沈黙の後、千佳が恥ずかしさを払うように言いました。

千佳「…なんか部屋の中でこうしてるのも変な感じだね……」
雅博「う、うん……」

そしてまた沈黙…。
雅博は嬉しい時間を過ごしていました。
けれども、何故か心が晴れませんでした。
その理由が分かったのは、それから暫くのことでした。

雅博「千佳ちゃん…僕、話があるんだ……」
千佳「え…何?」

雅博は隣で手をつないでいる千佳に向き合いました。
そして……

雅博「僕…一目見た時から千佳ちゃんのことが好きだった……」
千佳「………」
雅博「僕と……付き合って下さい!」
千佳「…………」

紅葉色の沈黙。
今、男と女、大学生と小学生、2人の時間が流れている。
千佳はやっぱり頬を染めながら、ちょっと困ったように、そしてびっくりしたように足元を見つめています。
その僅かな時間が、とても長い時間でした。

千佳「………私でよければ……」
雅博「……ほ、本当…?」
千佳「うん……。 なんかお兄ちゃんって意外と頼り甲斐あるし……」

千佳は雅博の顔を見てにっこり微笑みました。
その笑みに、雅博もこの上ない笑顔で応えました。

雅博「あ、ありがとう! 千佳ちゃん!! 僕、千佳ちゃんを守ってみせるよ!」
千佳「うん……」

そう言うと千佳は、雅博に肩を寄せて身を任せました。
人生において、初めての凱を今、盛大に挙げる雅博。
歓喜の余り、涙が自然とこぼれていました。

雅博「……うぅ…嬉しい…嬉しいよ……」
千佳「お、お兄ちゃん…何も泣かなくても……」
雅博「だってこんなに嬉しいこと初めてだもん…」

涙を流す雅博の頭を撫でてあげる千佳。
千佳を守ると言いながらも、千佳に頭を撫でられる雅博。
情けなさを感じながらも、雅博の心の中では強い変化が起きていたのです。
この幸せをいつまでも長続きさせる。
そのためにも自分がしっかりしなければ。
勢いづいた雅博のコアは意気軒昂し、強い意志が生まれていました。
千佳は泣き止まぬ雅博を、いつまでも撫でてあげているのでした。
絡めあった指の一本一本が、お互いを感じている幸せの時だったのです。


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