夕食後の団欒


夕食も終わり、リビングで名雪とテレビを見ている。
番組自体は大して面白くも無いお笑い番組。
名雪は時折笑っているが、俺はどこが面白いのか分からない。
未だ名雪と再会した実感が持てない。
あの時以来一度も会うことなくお互い過ごしてきた。
はっきり言って俺もここ数年は名雪のことなんて一度も考えることがなかった。
昼間再会した時にはつい毎日考えていたなんて言ってしまったが…。
疎遠になってしまったイトコなど、所詮そんなもんだろう。
それが急展開でこんなことになるとは。
なんだか嬉しい気持ちもあるが、複雑な感じがする。

名雪「…どうしたの? 難しい顔して…」

お笑い番組を見ているのに笑わない俺に気付いたのか名雪が言った。

祐一「え? ああ、ちょっと考え事をしててな」
名雪「考え事? ふ〜ん、まあいいけど」

ソファーの上で寝転がり肘をついて考え事をする。
目の前にはテレビを見ている名雪がいる。
成長して女らしくなった名雪。
名雪も女の子、なんだよな…。
テレビの音だけが部屋に響く。
冬の日の晩。
懐かしいイトコの家……。

祐一「なあ、名雪…」
名雪「ん? なに?」

テレビに釘付けの名雪は、俺の方を振り向くことなく返事をする。

祐一「なんか変な感じだよな、俺たち…。 7年前以来一度も会うこともなく急に再会って…。」
名雪「何? まだそんなこと考えてたの?」

軽く振り返るその表情は、自然な笑顔だった。
名雪「だってさ…約束したじゃん、また会おうって…」
祐一「でももし父さんが海外転勤なんてなければ会うことも無かっただろ…?」
名雪「ううん、それは違うよ。 祐一のお父さんの転勤も、私たちの再会も、全部運命なんだよ」
祐一「そういうもんかな?」
名雪「そうだよ。 それが私たちが交わした約束の力なんだから」

嬉しそうに話す名雪。
そんなにまであの時の約束を大切にしていたのだろうか。
俺は単なる口約束としか思ってなかったが、名雪は違ったみたいだ。
この辺は乙女心というものの範疇なのかもしれない。

祐一「ところで俺の教科書、今見てくれるか?」
名雪「教科書? …ああ、そうだったね。 うん、いいよ」
祐一「テレビ番組は見なくていいのか?」
名雪「うん、ちょうど今終わったところだから」

ということで俺と名雪は俺の部屋へと戻った。


部屋に入るなり劈くような寒さが身に沁みる。
廊下も当然のように寒いが、それ以上に部屋が寒く感じる。
堪らず備え付けのエアコンをつける。

名雪「なんか祐一の部屋って寒いね…」
祐一「そうだな。 ところでこの部屋は前は誰の部屋だったんだ?」
名雪「誰の部屋でもなかったよ。 一応荷物置き場として使ってたの」
祐一「そうだったのか…」
名雪「うん。 それより早く、教科書見せてよ」
祐一「ああ、そうだな」

俺は机の上に立てて並べてあった教科書全部を手に取る。
これから学校があるのか…、考えただけでも憂鬱になる。
一応明日までは冬休みということになっている。
しかし明後日からはもう学校が始まってしまう。
この懐かしい場所で、名雪と同じ高校へ通うことになるのだ。

名雪「う〜ん、日本史や世界史は同じだけど数学は違うっぽい…」
祐一「何だと? じゃあどうすればいいんだ?」
名雪「商店街の本屋さんにうちの高校で使ってる教科書が売ってるからそこで買う」
祐一「おお、お前が買ってくれるのか、ありがたい」
名雪「ううん、祐一が自分で買うの」

俺の少ない小遣いが教科書なんぞの為に消えてゆくのか…。
考えただけでも気が滅入る。
まあこればかりは仕方ない、諦めよう。

名雪「数学だけ買えば大丈夫だよ」
祐一「そうか、被害が少なくてよかった…」
名雪「被害?」
祐一「いや、なんでもない、こっちの話だ」
名雪「そう…。 じゃあ明日それも買いに行った方がいいね」
祐一「ああ。 俺はもう諦めるよ」
名雪「? それじゃあ私はもう寝るから。 おやすみ〜」
祐一「ああ、おやすみ」

もう日付が変わろうとしている。
寒さも一段落したことだし、俺ももう寝るとするか。
電気を消して、布団の中に入る。

…が、しかし暫くは眠れそうに無い。
ベッドの中には、名雪の残していった仄かな色香が漂っている…(笑)



        

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