久遠(とわ)のバス停

 突然の雨だった。
正午まではすっきり晴れ上がっていたのに、ほんの数時間でこの雨。
群雲が一挙に押し寄せてきた、そんな感じだった。

『ついてねぇな……どっか雨宿りする場所見つけないと…』

ここは何も無い、田んぼ道。
車からはかなり遠くへ来てしまった。
近くを見渡しても、あるのは田んぼと蛙の鳴く小川だけ。
ちょっと集落から離れてしまっているので、民家も見当たらない。
とりあえず俺は、一本道をこのまま走ることにした。



雨が激しさを増してきた頃、漸く雨宿りできそうな場所を見つけた。

『おっ、あそこなら!』

見た感じ、バス停のようだ。
風が吹けば倒れそうな薄い木の板で作られた、トタン屋根のそれ。
錆び付いて今にも倒れそうな頼りないバス停。
俺はひとまず、そこで様子を見ることにした。
バス停の中に入った俺は、一瞬、ドキッとした。
先客がいた………。
俺は、思わず声を上げてしまった。

『えっ……』

こんな雨の中、誰かいることは想像していなかっただけに、吃驚。
聞こえるか聞こえないか、それぐらいの声だったが、この空間では恐らく聞こえただろう。
その先客も、小さな声をあげた。

『あっ………』

小さな身体が、ビクッっとなるのが分かった。
奇異の篭った畏怖の視線の主は、少女だった。
小学5年生ぐらいだろうか。
一見大人しそうな印象の、ショートカットの女の子。
俺は少女を警戒させないよう、静かに隣に座った。

『急に降ってきましたね……』

少女に対して敬語を使ってしまったのは、いかにも自分らしい。
一瞬のあのドキドキが、影響したのは間違いない。

『あ…はい……』

少女は、小さく返事をした。
見ると、少女は濡れていなかった。
雨が降る前からずっとこのバス停でバスを待っていたのだろう。
でも弱った……こういう場合、場が持たないんだよな…。
何か喋りかけた方がいいのかもしれない。

『君……この辺の子?』
『…はい……そうです』

少女は、ちょっと間を置いて答える。
また沈黙……。
雨は、まだ上がりそうにない。
トタンに打ち付ける雨の音と蛙の鳴き声が、この時間の全てだった…。

             次の頁
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送