森は、昼間だというのに薄暗く、何かが潜んでいそうな雰囲気だった。
蝉の鳴き声は、岩に染み入る鳴き声そのもの。
何処か淋しさを感じるこの森で、オレは暫く噴出す汗を落ち着かせることにした。
手頃な石に腰を据え、ふと上を見上げる。
すると何だろうか…頭の上を紫のもやもやしたものが行き来するのが分かった。
はっきり見えるわけではない。
ぼんやりと、生き物なんかではない、何か。
妖怪か、はたまた幽霊か…。
突如恐怖に駆られたオレは、その場から逃げようと走り出した。
後ろを振り返らず、一途に森の出口を目指す。
幸いなことに、その何かは後をつけてくることは無かった。
森の入り口の道祖神の前で、安堵の溜息。
乱れた息を整えていると、真後ろで声が聞こえた。
「紫とは、これまた厄介だな」
心臓が止まる思いで振り返ると、そこには中年の男性が立っていた。
背の低い、五十代後半といった年の頃だろうか。
そしてその男性はオレの表情など気にする風も無く続けた。
「紫色は絶望を意味する」
「絶望…?」
オレは思わず聞き返していた。
もしかしてこの人が退魔屋?
「退魔の仕事をしていて紫ほど厄介なものは無いんだよ」
矢張り例の退魔屋のようである。
「先程はすまんの、ちょいと出払っておってな」
先程とは、店を訪れた時のことを言っているのだろう。
退魔のおっちゃんは詫びを入れると、オレを手招いて幕の下がった店の中へと入っていった。
一瞬、逡巡してしまったが、ここまで来てしまったのも何か因果があるのだろう。
そう思いながらオレは幕をくぐり、暗い室内へと入っていった。
見たことの無い奇妙な護符らしきものが、部屋のあちこちに貼られていた。


             前の頁
             次の頁


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送