退魔屋

 養生に向かう途中の列車の中で、流れる景色に見つけた森があった。
列車が止まった所で下車する。
降りる客も、乗る客も居ない。
長い間列車に揺られ、体のあちこちで音がする。
列車の去った無人ホームで一人、伸びをすると既に汗が噴出していた。
周辺には誰もいない。
民家一軒すら見当たらない。
秘境という程山奥でも無いが、田舎と言うには充分であろう。
そしてホームから出ると、駅前と言うのにこれまた人もいなければ民家も無い。
田圃や畑の中に無理矢理作られた駅といった塩梅である。
とりあえず先に見つけた森を目指して歩く。
すれ違う人間も、全くいない。
辺鄙な地で一人になった孤独を味わいながら、目指す森。
案外近くに見えるのだが、実際歩くとなると結構時間がかかるようだ。
彼是十分以上歩いているのだが、その森には辿り着かない。
ニイニイゼミの喧しい声が近づいてきた頃、森の前辺りに一軒の民家があるのが分かった。
よく見ると屋根に掲げられた古い木看板がある。
何かの店屋のようである。
こんなところで商売が成り立つものなのか、興味を持ったオレは歩を速める。
そして見えてきた看板の文字……退魔屋…。
一瞬目を疑ったが、古い木看板には黒塗りで確かにそう書かれていた。
店の前まで来ると、足を止め、しげしげと店を観察する。
黒い幕で入口は閉ざされているが、その小さな間隙からこっそり中を覗いてみる。
特別変わった様子は伺えないが、店構えと同じ様に内部もかなり古い感じである。
何だか気になったオレは勇気を出してその店の戸を叩いてみた。
何回か戸を叩くが中からは何も聞こえない。
その後も暫く待ってみたが人がいる気配は無し。
もう廃屋になったんだと諦め、そしてオレは目の前の森に向かった…。


             次の頁


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送