橋男
次の日、俺はまた例の橋へと足を向けていた。
あんな男の相手をするのももう馬鹿らしいが、何やら気にかかることがあったのだ。
あの男の正体、それを突き止めるまでは俺も引き下がれなくなっていた。
川原に来ると静かな水の流れが心地いい。
金色の擬宝珠がキラリと光る太鼓橋。
だが、俺の期待に反して、男は居なかった。
昨日までは俺の邪魔をしていた男が、今日はいなかった。
これならば普通に向こう岸へと渡れるのだが。
期待を裏切られた思いで、俺はその場に項垂れた。
男は、何故居ないのか…。
昨日までは居ることを疎ましく思っていたというのに。
何故今日は居ないのか…。
俺は暫く男の居た場所で、その理由を模索していた。
それから一週間、俺は毎日通ったが、結局男が居ることは無かった。
多くの謎を残したまま、男は何処かへ消えてしまったのだろう。
いや、消えたのでは無い、還ったのかもしれない。
それが何処かは分からないが、俺はそう思う。
そして俺は、その橋を最後まで渡ることは無かった。
向こう岸には何があるのか、それは未だもって分からない。
全くもって不思議な男だった…。
今となっては、あの男の面影を窺い知ることは出来ない。
遠くで錫杖の音が、シャンシャンと鳴っている。
でも、俺には聞こえない、聞こえるのは川の流れだけである。
そう言えば、俺はどうして向こう岸へと渡ろうとしていたのだろうか…。
教えてくれる誰かが来るまで、俺はこの橋を……守ろう…。
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