キズナ(前編)

 仕事を終えて、帰宅するとそこに待っているのは真っ暗な部屋。
街中の喧騒から離れ、静かな住宅街の一角のアパート。
隣の住人の顔さえ知らない。
部屋の窓から見える遠くの街の明かりや、通りを挟んだ向かいのマンションの明かり。
温度を持たぬその明かりを見ながら、部屋の灯りを点ける。
二度、三度点滅し、ぱっと昼間のような明るさになる。
無機質な灯りでも、暗いよりはまだマシだ。
仕事で疲れたのですぐに風呂に入ろうと思い風呂を沸かす。
ジャーという勢いよくお湯が浴槽に溜まってゆく。
その様子を死人のように見つめ、暫し思考を停止する。
今日で丁度半年。
都会での暮らしを夢見て上京してきた。
戸惑いも多い中、何とか見つけた就職先。
初めての仕事で、ミスばかりの毎日。
上司の叱責、同僚の陰口の毎日。
そして、孤独な毎日。
毎日同じことの繰り返し。
逃げ場はもう、無い。
都会の砂漠で、独りはもういい。
お湯が溜まり始めた浴槽の中で、握り締めていた薬を飲む。
三錠も飲めば充分だろう。
すると直ぐにぬるま湯の中、次第に意識が遠くなっていった…。

             後編
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