夕暮れの蜃気楼

 「ほぅ、これはまた懐かしい。
儂も律子の年の時分には毎日読み耽ったもんじゃ。」
爺ちゃんが通りがかりに言う。
何となく蔵の中に入ってみたら、面白そうなものが出てきた。
いかにも古そうな書物。
表紙に書かれた『妖伝記』の文字。
この本を蔵から持ち出し、縁側で横になって見ていた時、爺ちゃんが通りかかったのである。
「律子はどいつが好きなんじゃ?」
爺ちゃんはこの本の中に出てくる妖怪のどれが好きかと私に聞いているのだと思う。
「ん、なんか色々いて面白いけど……一番のお気に入りはこのクダギツネかな。」
「ほぉ、律子はそいつが好きなんか。
でも気をつけろ、そ奴はとんでもない悪さをするからな。」
爺ちゃんはニッコリと笑うと、私の隣に腰を掛けた。
「…その昔な、儂がまだ洟垂れ坊主だった頃の話なんじゃが。
仲の良かった勘吉って子がおっての。
よく一緒に遊んでたんじゃがある時突然病気になって寝込んでしまったんじゃ。
それから数日、勘吉は起きることは無かった。
ついにはそのまま……な。」
爺ちゃんの話に、私は何を言っていいのか分からなかった。
「それでな、それはクダキツネの仕業じゃての。」
「えっ、爺ちゃん見たん?」
「んむ、床に着いてる勘吉の上をぐるぐるとクダキツネが回っておっての。
後に儂の祖母さんから聞いたんじゃがクダキツネは病人に憑いてはあの世へと引き連れるそうな。
それは恐ろしい物の怪なんじゃよ。」
「そうなんだ……。」
私はその時凄く衝撃を受けたのを覚えている。

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