小夜の目は、本気だった…。
紅花色の口から紡ぎ出された言葉を肯定する瞳。
ねぎ提灯がぼんやりと映るその瞳を、忘れられない。
「私、もういなかきゃダメなの…」
彼女の目は、本気だった。
彼女には、僕の理解できない事情がある。
その瞳がそれを物語っていた。
行灯に吸い寄せられたのか、幾疋もの蛍がゆらりと舞って来る。
そして境内を仄かに照らし、自己主張をするかの如くゆっくりと舞う。
いつしか蛍はじっと黙り込んだ彼女の周りを舞い始めた。
彼女の周りを舞うその蛍が、僕には厭ましく思えてならなかった。

 そして黙していた彼女は、重い口を開いた。
「仲間が迎えに来たから私、もういくね…」
彼女の最期の言葉が、僕に重くのしかかった。
不思議と彼女の言葉がすんなり理解できた。
彼女とはもう会えない、そう自然と感じていた。
最期の言葉を口にした小夜は、突然光を放ち、辺りを一瞬にして真っ白な世界へと変えた。
刹那の出来事に僕は思わず目を瞑ってしまったが、寸刻後には先程と変わらぬ闇の世界がそこにはあった。
唯一つ、小夜がいなくなったことを除いては。
小夜はいなくなった。
いや、いなくなったのでは無い。
還ったのである。

 不思議な女の子だった。
一週間前にこの神社で出会って毎夜遊ぶようになっていた。
小夜と名乗った少女は、艶のある真っ黒な長い髪と吸い込まれるような瞳をしていた。
その上肌は漉きたての和紙のように真っ白だった。
家はどこかと訊ねれば、この神社がそうだと言う。
神社に住んでいるのも不思議だったけど、それより夜にしか遊べないというのが一番の不思議だった。
小夜と出会って一週間、小夜は還っていった。
たくさんの仲間と一緒に。
残り僅かな命を本来の姿で全うしようと。
境内に吹いた闇風が、行灯の灯りを消した。
闇の中に輝きを放つ幾疋もの仲間に囲まれ、背中に傷を負った真っ黒な彼女が神社の本殿の方へと消えていった。
僕は、残されたねぎ提灯の中の命の消えるのを見守ることしかできなかった…。

             

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