ねぎ提灯

 彼女と遊ぶのは、いつも決まって夜だった。
この日もいつものように近くの神社に来ていた。
手に提げた行灯が、唯一の灯り。
「今日は何して遊ぶ?」
僕の問いかけに真綿色の小夜が俯いて言う。
「ん……勘太の好きな遊びでいいよ」
ぼんやりとした闇の中、小夜の肌の白さは際立っていた。
いつもとは違った小夜の反応に、僕は少し不安な気持ちに駆られる。
「そう? じゃあ蛍を捕まえようか?」
「うん、いいよ…」
下を向いていた小夜は顔を上げ、いつもの笑みを見せてくれた。
その笑顔に、それまでの不安が一気に吹き飛んだ気がした。

神社の横を流れる小川へ行くと、そこには数え切れないほどの蛍が飛び交っていた。
行灯の灯りに照らされた小川のキラキラと、蛍のか弱い朧な灯りが対照的だった。
僕達は蛍捕りに夢中になった。
草の葉の先に止まる蛍を、そっと近づき捕まえる。
蛍は逃げ足が遅いので案外簡単に捕まえられる。
ぼうぼうと光を膨らませるその蛍を、近くの畑の葱坊主の茎の中へを入れてやった。
それを僕らは『ねぎ提灯』と名づけて遊んでいる。
薄い葱の茎を透ける蛍の淡い光。
暗闇の中、その灯りは頼りないものの、心を照らしてくれる大事な灯火となってくれる。
二人きりの、僕らだけの時間。
夏場だけのこの遊びも、これで何度目か知れない。
けれども其の度毎に感じる趣は違っている。
今日も新たな発見をした。
行灯を掲げた時に偶然に見えた小夜のうなじの下の小さな傷。
今まで何度も遊んだけどこんな傷はあっただろうか。
闇のように黒いその傷は、小夜の白い肌の中で特に際立っていた…。

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