家に帰ると早速買ってきた宝石を眺める。
紙の包みを開け、中から黄金の光を放つ虎目石。
この輝きは今まで見たことが無い。
自分がエジプトのファラオにでもなった気分だ。
いつもの棚にそれを置く。
これで集めた宝石は五つ目となった。
瑠璃、翡翠、琥珀、瑪瑙、そして虎目石。
真ん中に置いた虎目石は、他のどれよりも輝いて見えた。
次は絶対にアメジストを買おう。
そう心に決めて小さく笑いながら棚の戸を閉めた。

 トーストで軽く昼食を採った後、いつものイスに座る。
そして真新しいキャンバスをイーゼルに掲げる。
虎目石のお陰で、今日はいい絵が描けそうだ。
絵の具を絞りながら頭の中で描いてゆく。
下書きは一切無し。
抽象画の初めての挑戦だった。
真っ白いキャンバスが次々と色鮮やかに塗られてゆく。
ドローネーやピカソのように表現はまだまだ確立されていない。
でも今なら何だか描けそうな気がする。
無心で筆を執り、何かを描き上げてゆく。
原色から淡色、様々な色合いをキャンバス上で生み出してゆく。
午後の柔らかな日差しに照らされ、色が益々鮮やかに映し出される。
遠くに街の雑踏が聞こえ、近くで小鳥の囀りが聞こえる。
今度の絵はいくらで売れるだろうか。
いつしか僕には自信がついていた。
今の僕には五つの宝石の色が、備わっているのだから。

             

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