白色のキャンバス

 「これが、アメジストと云う水晶です」
店屋のおじさんに見せてもらったそれは、藍色に近い紫だった。
以前から聞いていたのだが、ここまで美しいとは思ってもみなかった。
きらりきらりと、輝くそれは、吸い込まれるような魅力を持っていた。
「これはいくらですか?」
すっかり虜になってしまっていた。
この水晶が欲しい。
ごく普通の石にびっしりとこびりついた風なその紫を、手に取って言った。
「こいつは大きめだに、銀貨五枚だな」
思った以上に高かった。
手持ちはそんなに無かったので、仕方なしに別のを探すことにした。
大きな岩石にびっしりとついたアメジストや丸い水晶の球。
黄金色に輝く輝石や瑪瑙なんかもある。
店の中を見ているだけでも楽しい。
一通り店内をぐるりと見て回ると、目に留まった一つの石があった。
琥珀色に輝くその石は、見る角度によってキラキラと色を変えていた。
「それは虎目石と云って魔除けにもなる宝石だよ」
虎目石…確かに虎の眼のような鋭い光を放っている。
陳列台の上の蝋燭の焔に照らされ、それは黄金のような美しさだった。
「そいつは今なら銀貨二枚に負けとくよ」
店のおじさんの一言で、この虎目石を買うことにした。
手の平程のそれを茶色の紙で包んでゆく店のおじさん。
その手馴れた手つきを、僕は暫く見ていた。

 店の外に出ると、すっかり日が真上に昇っていた。
店の前の下り道を下りて行くと、両脇のパン屋やカフェからはいい香りが漂って来た。
楽しそうに店先でティータイムを愉しむ貴婦人達。
近くの店の職人さんも幾人もパンを買いに求めて来ていた。
お腹が鳴るのをおさえ、帰途に着いた…。

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