日が暮れ始め、辺りはすっかりホオズキ色に染まっていた。
あの小僧のお陰で要らぬ体力を消耗し、俺は近くの川原の黒松の下で栗餅を食っていた。
最後の食料も、やがて無くなった。
その後川の水で喉を潤し、今晩寝る場所を探す為に立ち上がった。
と、ふと対岸を見るとなんと先の小僧がいるではないか。
俺に気づいているのかいないのか、一人で葦叢の中で川の水と戯れている。
辺りを見ても母親らしき人影も見当たらない。
近くで農作業をしている爺婆がいるのではないかと見てみるが、それも見当たらない。
俺は何だか無性に怖くなった。
この小僧は妖怪か物の怪の類ではないのだろうか。
はたまた狐か狸が化けているのだろうか。
こんな誰も居ない村外れの処で、しかもこんな時分に一人で童が居るとは思えぬ。
俺は又一目散にその場を逃げ出した。

 それからどれ程経っただろうか。
丁度手頃な大木の洞を見つけ、其処へと重い体を投じた。
暁は愈々藍染色に染まっていった。
洞の中から山に沈み行く夕陽をぼんやり見ていると、目の前をあれが横切った。
またあの小僧……いや、あの化け物である。
俺は洞の中で、その恐怖と戦っていた。
俺の懺悔の時間は、夜明けまで続いた。
黒松に宿った神が、俺の悪行を見透かしていたことに、漸く気づいたのである。
山寺の和尚に、これで借りが出来てしまった。
当面の銭を稼いだら、栗餅でも買っていってやることにしようと、俺は思った。

             

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