いつしか俺は巨木の中の墓場へと足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が墓場を包んでいた。
数十基という数の墓石が行く手を阻むかのように聳立している。
墓石には見たことの無い文字が書かれているようだが、ぼやけていてよく見えない。
そんな墓石には大きな立派なものから今にも崩れ落ちそうなものまで様々。
しんと静まり返る墓場。
時間の流れの音だけが、この空間で聞こえていた。
誰もいないこの墓場を後にすると、もう日が暮れ始めていた。
巨木の中にはほんの十分程度しかいなかった筈なのに、もう日が暮れようとしているのか。
不思議なことがあるものだ、と、再び歩き始める。
空中庭園だけあって、ここは夕焼けがよく見える。
地上より一層強い夕陽が緑のこの楽園を燃やしていく。
その焔のお陰で、先程の大木もすっかり燃え上がっていた。

 庭園をぐるりと一周したようだ。
昼間の苔むした石造りのベッドまでやってきた。
相変わらず長い髪の女はベッドの上で死んだように眠っている。
ただ先程とは違うのは、女の体から何本ものツルが伸びている事だった。
矢鱈と気味の悪い光景である。
その幾本ものツルは、女の臓の内側から這い出してきたような、そんな伸び方をしていた。
そして暁に照らされたそのツルは、ゆっくりと動き始めた。
にょろにょろと長く伸び、そして次第に女を包んでゆく。
痩せ細ったウワバミのように、それは気味悪く動いては女の体を這って行った。
俺はその光景をただじっと見詰めていた。
そして動きが止まったのは、女が完全に包まれてからだった。
俺は真っ暗闇の中、ツルに包まれた女と空中庭園で朝を待った…。

             

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