夢幻草

 夢を見た。
見たこと無い女が、石造りのベッドに寝ていた。
石造りのベッドとは、この苔むした硬い石で出来たベッドのことである。
この女はどうやってここへ入り込んだのか。
俺が一夜にして築いたこの空中庭園に。
腰ほどまでの長い髪をベッドに横たえ、死んだように眠っている。
「起きろ」と声をかけても、何の反応も無い。
本当に死んでいるかのように、小さく胸を上下させているだけだった。
俺は女を放っておいて庭園の散策をすることにした。
新緑の芝生の丘を抜けると見えてくる噴水庭園。
心地よい音色を奏でるヴィーナスを模った白亜の噴水。
噴水の縁で水浴びをする小鳥達が楽しげに啼いている。
俺は更に緑の中の石畳の道を進んで行った。
この道はどこまで続いているのか、俺にも分からない。
そして道は二股に分かれた。
遠く森が見える。
片方の道は鬱蒼と茂った森へ続いているようだ。
俺は森を迂回しもう片方の道を進んでいった。
黄色や赤の花に囲まれた道は、ヘビのようにぐねぐね曲がっている。
そしてやってきたのは一本の大木の前だった。
塔のようなその巨木は、蒼穹に向かって青々と伸びていた。
大木の根元には何故か廉い造りの木製の扉がついている。
葉の啼く声に後押しされ、俺はその扉をいつしか開けていた。
バタリと閉まる音がした。
そして一瞬真っ暗になった目の前に広がっていたのは、墓場だった。
太陽を小さくしたようなものが天井にぶらさがって内部をすっかり照らしていた。
昼間のように明るい、墓場だった。
所々に十字架も見える。
十字架の無い墓には塔婆が見える。
目の前に広がった異空間に、俺は胸がズキズキ痛むのを感じていた。


             次の頁
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送