試合は1対1の接戦だった。
白熱する試合に、応援は一層熱を帯びていった。
私もいつしか立ち上がり、彼の活躍を遠く見守っていた。
そしてそのまま9回裏へ。
相手チームの攻撃に、鉄壁で守り抜く彼のチーム。
彼の最後のピッチングに、私はもう目が釘付けになっていた。
彼の顔から吹き出る汗と、私の体から流れる汗。
私達の間には、夏の絆が結ばれていた…。

結果は1対2。
彼のチームは、最後の最後に逆転され負けてしまった。
疲労が溜まりきった彼の投げる球を、最後の打者がサヨナラを打った。
それが決定打となり、彼のチームは失点してしまった。
マウンドで泣き崩れるチームの姿。
彼も自分の責任だと感じていたらしく、甲子園の地面を叩いて泣いていた。
私も、彼の姿を見ていると悔しくて、叫喚して泣いてしまった。
スタンドも、マウンドも、歓喜と叫喚の声が、いつまでも響き渡っていた。
そして閉会式も終わり、敗北感に打ちひしがれるチームを、応援に来ていた女生徒達が元気付ける。
私も涙はもう見せられない、そう思って彼の元へ。
彼はまだ泣いていた。
真っ黒になったユニフォームで、甲子園の土を握り締めるように泣く彼。
私は、その場でたじろいでしまった。
今はそっとしておいてあげた方がいい。
私はそっとその場を離れ、遠くで彼を見守ることにした…。

日が暮れ始めた。
その日の帰り道…遠征バスの中は、静かだった。
俺はもう話す気力もなく、ただ窓の外の流れる景色を見つめていた…。
もう終わった…俺の夏は……俺の高校生活は……。
そう心の中で嘆いていると、バッグの中の忘れていた携帯電話に、メールが来た。
徐にその携帯電話を開く。
 「残念…だったね……でも…明日からいっぱい遊べるね」
彼女からのメールだった。
そのメールを見た瞬間、俺の中の何かが弾けるのが分かった。
俺には甲子園以外のゴールがあったことに、この時初めて気づいたのだった…。

             

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