サヨナラの夏

 マウンドに登る彼の姿を、私はスタンドで見ていた。
盛り上がるスタンドに、燃え上がるマウンド。
遂に始まった最後の試合。
高校球児の誰もが憧れ、夢見る舞台。
私はこの舞台に上がった彼の姿を、しっかりと見届けていた…。

 彼に出会ったのは、去年の夏だった。
私がまだ一年生だった時、学校のグラウンドで練習している彼の姿を見かけた。
最初は「野球部って毎日頑張ってるんだなぁ」ぐらいにしか思っていなかった。
けれども、暑い夏休みも毎日のように練習しえいる姿があった。
その中でも特に目立つ存在の男子がいた。
それが今の私の彼である。
ピッチャーという重役を担って、毎日遅くまで練習する彼。
部員達が帰った後も、ただ一人ピッチングの練習をしていた彼。
私も部活で遅くなっても、まだ一人練習している彼。
私はいつしかそんな彼の虜になっていた。
恋、というよりは一人のファンとして、彼のことを好きになっていた。
そして新学期になってすぐ、私は告白した。
毎日陰ながら応援していたこと、見守っていたこと。
色恋沙汰には疎い彼だったけど、私の気持ちを受け取ってくれた。
私はとても嬉しかった。
それからというもの、私は毎日彼の練習する姿を見ていた。
部活が休みの日も、近くの公園で自主練する彼の姿も。
休みの日も部活で、遊びに行く暇はほとんど無かった。
でも、私の生活は充実していた。
彼の一生懸命練習する姿を見るのが、私にとって一番幸せな時間だった。
それだけが、いつしか私の唯一の楽しみになっていたのだった。


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