それから1週間程経ったある日。
食糧買出しの帰りのことである。
俺と少女は久しぶりの快晴の下、白い息を吐きながら歩いていた。
ドブ川に架かる橋に差し掛かった時。
 「食べるか? ボンタン飴」
 「あ、うん……」
袋から取り出した買ったばかりのボンタン飴の箱を、少女に手渡す。
ボンタン飴を見たその嬉しそうな少女の顔を、俺は一生忘れないだろう。
初めて会ったあの夜、少女が着ていた服のポケットに入っていたボンタン飴。
唯一の少女の所持品だったそのボンタン飴を、俺は毎日買い与えている。
まだ少しぎこちない俺と少女の関係だが、徐々にその距離は縮みつつある。
少女は真新しいボンタンの箱を空け、飴を一粒頬張った。
さりげなく箱を閉める少女の手が、とても小さく見えた。
融け始めの雪の積もる道を、俺と少女は歩いていた。

 それからも毎日、俺は少女と一つ屋根の下に暮らしていた。
記憶が戻らない間だけの、ライトな関係。
決して恋愛とか、そういう関係ではないが、とても充実した毎日だった。
少女が毎日見せる違った表情は、虚無な生活を送っていた俺に一輪の花を咲かせてくれた。
しかし、そんな日も長くは続かなかった……。
雪の降る寒い朝のこと。
俺の寝ている間に、少女は部屋を去っていた…。
恐らく記憶が戻ったのだろう。
それまでも記憶を部分的に記憶が戻る場面が何度かあった。
今度は全て思い出したのか、少女は俺に最後の挨拶も無しに去って行った。
少女に買い与えた新しい洋服や生活用品一式が無くなっていた。
ガランとしたその部屋は、とても寒かった。
少女の寝ていた布団には、まだ微かに少女の温もりがあった。
そして布団の中に、一枚の紙が置かれていた。
 「おせわになりました  未来(みく)」
可愛らしい筆跡で、ただそう書かれていた。
帰る場所が見つかった未来(みく)を思うと、俺は自然と涙が出ていた。
そして枕の下の真新しいボンタン飴の箱に、俺はこの日気付くことは無かった…。

             

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