ボンタン飴

 俺は一人の少女に出会った。
雪の降る寒い夜に、弱々しい光を放つ街灯の下で。
少女は泣いていた。
薄汚れた薄衣を身に纏って。
 「こんなところで……どうしたんだ…?」
泣き続ける少女は、涙目で俺を見るなり苦しそうに言った。
 「わたし……分からないの……」

少女は記憶喪失だった。
自分の名前も、どこから来たのかも、何もかも覚えていない。
凍えるような寒空に孤独な少女が一人。
どれだけ辛かったことだろう、どれだけ怖かったことだろう。
俺はその少女の気持ちを思うと、いてもたってもいられなかった。
 「どうだ、少しは温まったか?」
 「はい……ありがとうございます…」
俺の部屋で、ホットココアを飲む少女。
シャワーを浴びて、シャンプーの香り漂わせる少女。
長い間男一人だった部屋に、女の子の香りがしていた。
いつも俺が使っているシャンプーでも、少女から漂う香りはどこか違っていた。
コタツの向い側に座る少女は、恐らく小学生くらいであろう。
整った顔立ちで、笑顔が消えた少女を見ると、胸が痛くなってくる。
 「本当に何も思い出せないのか?」
 「はい…ごめんなさい……」
 「いや、謝る必要はないけど……じゃあ暫くこの部屋にいるといい」
 「え…いいんですか……?」
 「うん、記憶が戻るまで、俺が面倒見てやるよ」
放ってはおけなかった。
身元が分からない少女を、俺は一人になんて出来はしない。
子ウサギのようなその少女は、まだ肩を震わせていた。
少女の手は、コタツの上のミカンに伸びていた…。

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