「ねぇ、そんなにかわいいんだからちょっと写真撮らせてよ」
無警戒の少女に、俺は悪魔の声を囁いた。
 「写真? うん、いいよ!」
予想通り嬉しそうにはしゃいでいる。
これだからガキは扱い易い。
 「じゃあちょっとこっち来てね」
 「うん!」
俺の言葉に微塵の警戒を見せない無垢な少女。
俺は少女を近くの駐車場へと連れ込んだ。
狭く、死角の多いここは、俺が下見で見つけた場所だった。
 「ここで写真とるの?」
何も知らない少女は言った。
 「うん、待っててね、今準備するから」
そう言うと俺はバッグの中から例の物を取り出した。
太陽光に照らされ、眩い光を反射するシルバーの物体。
長さ二十センチに渡るナイフであった。
明るく煌びやかに光るそのナイフは、恐ろしいほど鋭かった。
それを少女は見ていた、無垢な瞳で、純粋な心で。
 「それ、写真とるのに使うの?」
少女の言葉に、俺は呆気に取られていた。
これをそんな事のために使うわけが無いだろう、そう突っ込みたかった。
 「でも危ないよ、そういうのは使っちゃだめだよ」
何だ、何かおかしい…このガキには恐怖心と言うものが無いのだろうか。
何も言えずにただ呆然としていた俺に、少女は上目遣いで続けた。
 「そういうのはちゃんと閉まっておかないと危ないんだよ?」
その無垢な心に、俺の邪心は徐々に浄化されていた。
俺の手はわなわなと震え、そして白銀の無機物は戛然と地に落ちた。
そして俺はその場に跪き、うな垂れていた。
俺は、こんな無防備で無垢な少女の将来を絶とうとしていたのか…。
途端に自分が恥ずかしくなっていた。
失うものは何も無かった俺に、幼心に諭す少女。
いつしか俺はその場で慟哭していた。
 「ね、もうこういうことするのはダメだよ」
全てを見通していた少女の言葉は、俺の運命を変えた……。

             

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