疲れていたのかもしれない。
もう、何もかもがどうでもよくなっていた。
森羅万象に育まれ、運命的にこの世に生を受けた俺。
そんな俺の向かうべき道は何処なのだろうか。
それを模索するのももう嫌だった。
重荷を背負ったまま生きるのはもう嫌だった。
何かをする度完璧を求める俺。
そう上手くいくことも無く、いつも中途半端に終わる俺。
そんな俺が嫌だった。
家族や友達や恋人と、満ち足りた生活の中、俺は悩んでいた。
幸せとは何か、生きるとは何かと。
先の見えない不安と、今の自分の不甲斐無さ。
これが俺を変えていった。
今の俺には、邪神が取り憑いていた。

 北を向き、蓬莱を仰ぎ天照大神へ跪拝する。
長い黙祷。
海風が俺の髪を乱していく。
遠く松籟が聴こえてくる。
蒼穹は雲一つ無く、爽やかだった。
俺は最後の神へ畏敬の念を捧げ、立ち上がる。
断崖の手摺りを越え、一人蒼穹を見上げる。
もう、心残りは無かった…。
波濤が岬の黒い岩にぶつかり、泡沫をあげる。
この黒い波は、俺の最後には丁度いい。
俺も母なる海へ、飛沫となって還ろう。
親へ感謝し、そして謝る。
(幸せでした…俺は…僕は……生まれて来て……)
(そして、与えられた命を全う出来ないことをお許し下さい…)
(さようなら…… そして、また会いましょう………)
(転生し……新たな魂となって……きっと………)
銀杏の葉がひとひら、海に散った……。

             

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