輪廻の銀杏

 神社に来ていた。
ふと立ち寄っていた。
銀杏の木が、凛と佇み、焼けるような色を蒼穹に放っている。
石の畳に閑かに乗る銀杏の葉。
その塊を避けて境内を散策していく。
呼んでいるような声が聞こえていた。
神社の奥で、本殿の方で、誰かが。
誰も居ない境内は、閑散としている。
寂しさの余り、泣けてくる程だった。
そして、本殿に置かれた蜜柑や神酒といった供え物が、新しかった。
賽銭箱に小銭を投じ、二拍手。
神への感謝、森羅万象への感謝、親への感謝。
俺には家族もいる、金にも困っていない、友達も彼女もいる。
でも何かが足りない…完璧ではない。
完璧な物など、この世には無い。
それは俺にも分かっていた。
でもそれを求めるのが俺の質。
求めずにはいられないのだ。
俺は散った銀杏の葉を一枚拾い、神社を後にした。

 やって来たのは、いつもの海だった。
独りでいるのは丁度いい、海風が冷たい。
遠く見える岬は、靄がかってうっすらと見えていた。
近く見える町並みは、いつもの町と変わらなかった。
唯一変わっていたのは、建設途中だったビルが完成していたこと。
秋風に吹かれ、独りで誰も居ない海を見つめていた。
すっきりとした空。
強く溜息をつき、交々思索に耽っていた。
今は、誰とも一緒にいたくなかった…。

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