「クロを殺したのは…お前だな…?」
俺の言葉に、一瞬笑みが消える樹里。
暫時の時を刻んだ後にはいつもの笑顔に戻っていた。
「嫌だな〜お兄ちゃん、どうして私がクロを殺すの?」
自分はさも何もしていないとでも言うような笑顔。
俺はその笑顔に戦慄と憤慨を覚えた。
「お兄ちゃん、クロは事故で死んじゃったんだよ?」
そう、クロは車に轢かれて死んだ。
それは俺が見ても明らかだった。
だからそれはお前が故意に起こした事故じゃないのか、そう怒鳴ろうと思った。
でも、言えなかった…樹里には…。
悔しさをかみ殺し、俺は樹里の散歩に何時間も付き合った。
そして夜……俺たちは神社の階段に座っていた。
クロの死で正気を失いかけていた俺は、ぼんやり星を眺めていた。
すると、樹里が沈黙を破った。
「私、お兄ちゃんが好き……」
その言葉に、俺は何を言っていいのか分からなかった。
「ずっと小さい頃から好きだった……そして今も」
いつになく真剣な眼差しの樹里。
そして次の言葉で俺は恐怖を覚えた。
「だからね、私がクロを殺したの」
平気でそう口にする妹が、恐かった。
「お兄ちゃんは私だけのものだから……だからお兄ちゃんに近づくクロも嫌いだった…」
そして、全てを理解した。
「……やっぱり母さんを殺したのもお前だな…?」
妹は何も言わず、黙って頷いた…。
今日も一人、神社に来ていた。
愛する人を、愛するが余り、他を排除した妹。
そして、その真っ黒な愛情の塊の妹を排除した兄。
これでやっと、愛される苦しみから解放された…。
終
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