黒い愛情

 忘れかけていた記憶が、今甦った…。

 「クロ、死んじゃったよ……クロ、死んじゃった……」

その言葉で俺は妹の恐さを知った。
黒い塊を抱え、無表情でそう呟く妹、樹里。
その手の中の黒い塊は、我が家の愛犬のクロだった。
クロの亡骸を無表情で抱える樹里。
俺はその時は、悲しみのあまり放心状態になっているのだと思った。
しかし、次の瞬間、樹里は細く笑っていた。
まるでクロの死を喜ぶかのような薄気味悪い笑み。
その笑みを残し、樹里は庭にクロを埋め始めた。
俺はただその後姿を見つめることしかできなかった…。
そしてクロの墓には、石が一つ、置かれていた。
墓の前で手を合わせる樹里。
そして次の瞬間には、彼女の顔はいつもの表情に戻っていた。
 「じゃお兄ちゃん、散歩に行こ!」
俺は信じられなかった。
クロが死んでも素でいられる樹里が。
だって一番クロを可愛がっていたのは樹里じゃないか。
どうして平気でいられるんだよ。
どうして俺にそんな笑顔を見せられるんだよ。
心のどこかで樹里を疑い始めながら、俺は散歩に付き合った。

 「私ね、お兄ちゃんとこうして一緒にいる時が一番幸せなんだ〜」
そう言っては腕を組んで来る妹。
さっきまでクロを散歩させていた妹。
その妹が、同一人物とは思えなくなっていた。
 「なあ、一つ聞いていいか?」
 「うん、いいよ」
俺は意を決して樹里に聞いてみることにした。
そう、それはクロのことだった…。

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