扉を開くと、強い風がマンション内を駆け抜けた。
その風に翻弄されながらも、男は扉を閉める。
屋上に吹く風は、一層冷たかった。
そして男は、その絶景に言葉を失った。
そこにあったのは、嘗て自分の見ていた街ではなかった。
誰も居なくなった廃墟の街だった。
その壮絶な廃墟群は、将に絶景だった。
嘗ては人々で活気付いていた街。
今はもう、誰も居ない、廃れ、荒れ、そして時は止まった街。
その街を見、男は悲壮感に襲われていた。
暫し眼下の灰色の街をボーっと見つめていた。
そして踝を返し、マンションを降りようとしたその時…

「待ってた……」

緋色の女が、目の前に立っていた。
灰色の空、灰色の屋上に痛い程赤い女だった。

「さ…沙耶……!?」

男はそう言うと言葉を失った。
この廃墟の街で再び出会った緋色の女、沙耶。
女は微動だにせず立っている男に近づいて来る。
そして……
男の痩けた頬に軽い接吻をした。
そして女は、手摺りまで来ると灰色の街を一望した。
そして、灰色の空を見上げたかと思うと、ゆっくりと天に昇って行った。
緋色の女は、幾片かの淡い燐光だけを残して、そして消えた。
男は、絶句していた。
20年以上前の、淡い思い出が沸々と甦えり、そして消えた。
廃墟の街で夭逝した沙耶を失った男。
幽邃なる廃墟の街で、沙耶は男を永い間待っていた。
緋色の一糸の絆を信じて、寒い灰色の街でずっと……。

             

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