緋色の街

 女が一人、秋の屋上にいる。
十二階建てのマンションの屋上に、緋色の外套を纏った女。
その華美な風貌は見る者に畏怖の念をも抱かせる程である。
聳立するマンションの屋上からの眺望は将に絶景である。
女はその景色を独り占めしていた。
他を寄せ付けること無く、女は一人、景色を楽しんでいた。
街は緑を豊かに育み、山吹の山々が周囲を囲んでいる。
外界から隔離されたような空間に栄えた街。
街は活気で溢れていた。
人々の声が、生活の音が、風の音色が、街に吹いていた。
マンションの周りには同じようなマンションがいくつも建っていた。
今日も高台に立つマンションは、その姿を眼下の街に存在を示していた。
女は秋の乾いた風に吹かれながら、今日も緋色の外套を靡かせ街を望んでいた。

 ある日、この街に一人の男がやってきた。
登山客のような風貌をした中年の男だった。
男は風の通る静かな街を、興味深げに見て回っている。
一眼レフを首から提げ、街の建物やら道路やらを写真に収めている。
やがて、男は高台に聳えるマンションの前までやってきた。
その圧巻されるような佇まいに、男は背筋が凍りつく。
堪らず何枚も写真に収めていく男。
その男を、女は見つめていた。
男は愈々、女のいるマンションへと足を踏み入れていった。
冷たい風が、冷たいコンクリートを冷やしてゆく。
マンションの階段は、ゴォーという風の叫びが反響している。
上から下へ、下から上へ、風が冷たく男を迎えていた。
コツ、コツとトレッキングシューズの音が響いている。
男は、屋上までやってきた。
そして、錆び付いた重い扉を開いた…。

             次の頁
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送