シュレイル『よし、今だ! 出陣開始!!』 シュレイルの喊声でアンベルクの軍は一気に城外へと出陣した。 その鬨(とき)の声は、城を囲む森をも揺るがすものだった。 余りの勢力でシャロン軍の進軍は一時停止する。 そして、城外でアンベルク軍とシャロン軍が遂に対峙した。 辺りを包んでいたもやが、朝日に照らされアンベルク軍は幻に包まれたかのようだった。 一方シャロン軍は優勢な兵力を武器に突撃を開始していた。 シャロン軍指揮官『臆するな! 敵は我が軍の半分の兵だ。 突撃しろ!!』 突撃してくるシャロン軍。 その兵力にアンベルク軍の兵の間にはどよめきが湧いた。 と、その時である。 突進していたシャロン軍の軍勢が急に突撃を止めたのである。 見るとアンベルク軍の兵はそれまでの何倍、いや、何十倍という兵の数になっていたのだ。 それに動揺したのはシャロン軍だけではない。 アンベルクの兵達も、突如として現れた仲間に動揺していたのである。 これがシュレイルの思惑だった。 魔術師ウィケットの魔術をもって幻影兵を出現させたのだ。 朝日がもやにかかり、それが幻影兵を出現させるには絶好の条件だったのである。 余りの幻影兵の数に、シャロン軍は進軍することができずに後退を始めた。 シャロン軍には数多の伏兵に見えたことだろう。 幻影の中には重機や火器といった大型の兵器も見える。 その数もシャロン軍の数倍〜十数倍もある。 その圧倒的な兵の差に踝を返すシャロン軍。 シャロン軍指揮官『ひ、引き上げだ! 無駄に戦力を費やす必要は無い!!』 指揮官の指揮で次々に撤退していくシャロン軍。 この戦乱の世において兵を無駄にすることは国の滅亡を意味する。 体勢を立て直すまで、シャロン軍は攻めてくることもないだろう。 アンベルクの兵達は、勝利の喚声を上げ撤退するシャロン軍をいつまでも見ていた。 その夜、勝利の宴が開かれた。 一人の犠牲も出さずにシャロン軍を撤退させたことでシュレイルは英雄となった。 城内皆が歓喜の声を上げて飲めや歌えやの大騒ぎ。 この時ばかりは誰もが皆戦を忘れ歓喜するのである。 そんな中、シュレイルは手柄を讃えるべくウィケットの元へ訪れていた。 シュレイル『シャロン軍はみるみるうちに撤退した。 これもそなたのお陰だ、礼を言う。』 ウィケット『そうか、それは良かったな。』 シュレイル『そなたも宴に参加したらどうだ? 酒も馳走もたんまりあるぞ。』 ウィケット『わしは賑やかなのは好かん。 今宵は一人酒を呷るさ。』 シュレイル『そうか、では俺は城へ戻る。 世話になったな。』 シュレイルはウィケットの小屋から出、城へと戻った。 すっかり日の暮れた空に輝く満月が、酒を一杯に湛えた盃のようだった。 シュレイルは城へ戻るなり直ぐ愛馬ルシオンを連れ、闇の森を駆け抜けていった…。
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