忌祓ノ刻(肆)

 小津女神社の境内は広い。
樹齢八百年を超えるけやきの御神木を中心に配し、鬱蒼と繁る木々。
粛然と佇む荘厳な流造ながれづくりの本殿。
其処へ続く冷たいいしだたみ耿々こうこう霽月せいげつが照らしていた。
此処小津女神社も儀式の準備は着々と進んでいる様だった。
本殿の内部を覗くと、私が入れられた風な駕籠が一挺。
茅葺きの屋根の両端には、金色の鳳凰が煌々と光輝いていた。
それを見た美代は、滂沱ぼうだとして涙を流していた。
美代の肩を抱いた私は、本殿の前で天空を駆ける彗星ほうきぼしを眺めていた。
七日後の儀式で、磔にされる生贄……美代。
此処には私達の居場所はもう無い。
村の繁栄の為の生贄。
私達の運命は、自分達で変える。
フクロウの啼く時分、私達は立ち上がった。

 神代村の美代ちゃんと八角村の澪ちゃんが東雲に訪れて来た。
まだ床に就いていた私を起こし、村の外れの瑞池神社へ連れてきた。
彼女達は儀式から逃げてきたのだと云う。
もう絶望していた私に、一矢の光が射した。
私の儀式まではあと十四日。
逃げるつもりは無かった。
けれども、二人を見ていると励まされ、運命を変えることを決意した。
もう怖くは無い。
私と同じ境遇の二人と一緒に、この村から逃げよう。
お父さんとお母さんに会えなくなるのは寂しい。
でも生贄から逃れ、私が延命出来る事の方が二人共喜ぶと思う。
もう私は一人なんかじゃない。
生贄なんかじゃない。
この脚で、自由を手に入れて行こう…。

             報告書(二)
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