神祀リノ邑 報告書(六)

      (九月六日)

 舗装された道路から、砂利道を進むこと十分程。
車一台がやっと通れる砂利道も、どうやらここまでのようである。
辺りを見回せど、見えるのは恐ろしい程の緑の森。
誰も居ない空間が、当時のまま残っているようであった。
仕方なく俺は歩いて現場へ向かうことにした。
歩くと言ってもどれ位歩くかは見当もつかない。
この道であることは間違いなさそうであるが。
そんな不安要素を抱えながら俺は歩いていった。

そして昼間でも暗い森を、二十分程歩いた頃に抜け出ることが出来た。
そしてそこに待ち構えていたのは、またまた道祖神。
長いこと風雨に晒された証に、その顔はすっかりのっぺらぼうになっていた。
矢那沢村は十数体あったのに、こちらは五体の道祖神。
矢張り村の入口の見張りのような存在だったのだろうか。
道祖神の後ろに続く石垣は、遠くの村らしき処まで続いていた。
俺はやっと辿り着いたのだ。
位置的にあそこに見えるのは酉竈村だろう。
俺は石垣伝いにその木立まで歩いていく。
獣道を想像していた俺にとって、石垣があることは驚きだった。
道幅も今までの獣道より大分広く取られている。
砂利道でもなく、固められた土で、以前は人の営みがあったことが伺える。
その嘗ての道路を歩いていると、程なく堀が姿を現した。
水は腐敗した藻が一面を埋め尽くし、悪臭を放っていた。
この堀は結構な広さの堀で、深さは俺の背丈よりもあるようだ。
俺が読んだ書物に酉竈村が堀に囲まれていたことは確かに書かれていた。
これも他を寄せ付けないようにする為であろう。
俺は村の入口を探す為にぐるりと廻らされた堀に沿って歩いていった。
村の木々で、ニイニイゼミが夏の終わりを告げていた。

             呪禁ノ刻(参)
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