呪禁ノ刻(参)

 それから男達は柳生家の当主に内密に準備を進めた。
乙女神社の地下に設けられた祭壇。
祭壇は本来であれば本殿の地階に設けられる。
当主の目に付かぬよう密かに地下に設けてあるのだ。
見張りをつけてあるとは言え、当主に見つからずに果たして儀式が遂行できるか。
そんな疑問の中、愈々儀式当日となった。
儀式を行う此処、小津女神社は村から少し離れている。
其れが幸いしたのか、当主に気づかれずに今日まで漕ぎつけたわけだ。

 俺は勘兵の指示通り斎吉と共に祭壇の前で待機している。
これから儀式前の餞奉げが行われる。
村で採れた根菜や干魚、米なんかも奉げられている。
腹の鳴るのを辛抱しながら俺は斎吉に話しかけた。
「俺はこの儀式には如何にも賛同できん」
「さよか、お主もそう思うか。 俺も同じだ」
斎吉も俺と同じ意見らしい。
其の言葉に何処かで強気なる俺がいた。
「勘兵殿の言うことはよう分かる。 だが当主に反故を起こすのは如何なものかと思うのだ」
「俺は儀式其のものの存在の意味を疑っている」
斎吉は俺と歳が近い為か、俺の言うことを云々と頷いて聞いている。
そして暫く沈黙が続いた。
その重い沈黙を破ったのは俺だった。
「オシライサマなど、本当に居るのだろうか」
俺の突然の其の疑問に、流石の斎吉も言葉を返す。
「其の話は止めだ。 俺等が祟られては話にならん」
そう言うと斎吉は儀式の準備の様子を見に行くと言って上へ上がっていった。
其の斎吉の後姿を見ながらどこかでもどかしさを感じていた。
そして俺は祭壇で揺らめく仄かな蝋燭の灯火を見て重い溜息をついた。

             報告書(六)
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