呪禁ノ刻(弐)

 柳生家の屋敷から出ると、各々考えを口にする。
「今年は儀式を行わないとは、当主は一体どういうつもりなのだ」
「生贄がおらんで、仕方なかろう」
「だが毎年の儀を断ち切ってオシライサマはお怒りにならぬだろうか」
「うむ、それが一番の問題だ、どうなるものか」
「生贄を捧げる事が出来ぬとあらば、村に災いが起きるやもしれん」
「何とかせねば……村は滅びてしまう…」
皆怯えている様子だった。
オシライサマの崇りを恐れているのである。
俺は半ば呆れていたが、この状況でそれを口にするのも憚れる。
そのまま男達は村の桑畑へとやってきた。
俺も流されるようについていく。
三、四の松明の灯火が夜の桑畑を仄かに照らす。
ネズミ一匹居ないこの桑畑で一体何をしようと言うのか。
俺は男達の行動が読めなかった。
そして十人の男達の中の一人、顎鬚の勘兵が言った。
「皆の集、よく聞いてくれ。 先の当主の話ワシは如何なものかと思う。 オシライサマの崇りがあってからでは遅い。  そこで当主には内密に儀式を執り行いたく思う」
その言葉に、俺は絶句した。
大部分の男は、云々と頷いているが、俺は言葉も出なかった。
そこまでして儀式を行う必要があるのだろうか。
オシライサマの崇りなど信じていない俺には、儀式などどうでもいい。
唯、生贄に人間を、然も童女を捧げることはどうも賛同出来ない。
この男達の中に、俺と同じ思いを抱いている男は何人いるだろうか。
この中で一番若い俺の意見など、誰も聞き入れたりはしないであろう。
俺の靄々とする胸中を拭うかのように、黒い雲の合間に粛霜の月が姿を現した。
松明に照らされた桑畑が、一層ぼんやり輝いた。

             報告書(六)
             一覧
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送