呪禁ノ刻(壱)

 儀式の七日前、神代村の男達は柳生家の屋敷に呼ばれた。
然し何度来てもこの屋敷は不気味なものである。
鬱蒼と茂った柳の木に囲まれた大きな屋敷。
内部は床なんかが所々こわれ、土が剥き出しになっている。
壁に所々打ち込まれた燭台には蝋燭の灯火が淡く朧に揺らめいている。
余りの不気味さに全身が身震いするのが分かる。
悪霊なんかが潜んでいそうな、そんな雰囲気である。
通されたのは畳二十枚程の広間だった。
男達がドカドカと腰を下ろしていく。
この広間は特に暗かった。
部屋の奥に設けられた祭壇の灯火と行灯の光のみが部屋内を照らしている。
祭壇前に腰を下ろした柳生家当主が、全体を見渡すと徐に口を開いた。
「さて、七日後に迫った贄祀りの儀式であるが…」
男達は一同唾を飲み込み当主の言葉を待つ。
「今年は行わない意向である」
男達は驚き、一斉に顔を見合わせた。
俺も例外ではない、柳生家当主がこんなことを言うとは思っても見なかった。
男達のうちの一人が、納得出来ないのか当主に疑問を呈した。
「当主、儀式を行わないとはどういう訳あってのことですか?」
当然の疑問だった、毎年行っている儀式を今年行わないとは。
そもそも贄祀りの儀式は柳生家がその殆ど全てを執り行ってきた。
神への奉物に当主が一番執着していたはずであるが。
そんな俺達の目をよそに、当主は更に続ける。
「この村にはまだ生贄に適した娘がおらん。 そういう訳で今年は儀式は行わない」
生贄に適した娘がいない、それを聞いて男達の半分は納得したが残りは未だ怪訝な様子である。
長年続けてきた伝統の儀式を、そのような理由で止めていいものなのだろうか。
些かの疑問が残る中、俺は男達に続いて柳生家を後にした。

             呪禁ノ刻(弐)
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