乾坤ノ刻(伍)

 俺は幻を見ていたのだろう。
助け出したはずの少女が、目の前で男達に犯されている。
いや、犯されているのではない、生贄にされているのだ。
嫌がる少女を、祭壇に押さえつけ、破瓜の鮮血を神へと捧げている。
今にも気を失いそうな少女の発狂した声と顔が、俺の脳裏に焼きついていた。
弱い者を、力ずくで神への生贄とする。
俺にはそれが理解できなかった…。
これが儀式だと言うのか。
初めて目の当たりにする生の儀式に、俺は頭がやられそうになっていた。
目の前の少女の小さな体が、祭壇の篝火に躍っていた。
少女の嗚咽に誘われるかのように、夜が明けようとしていた…。

 ボロボロになった私を、村の男が運んでいた。
やってきたのは、与一郎さんのいる所だった。
私は思わず声を上げていた。
「与一郎さん!!」
その声に、与一郎さんは「すまない…」の一言だけを残して目を瞑った。
後ろ手に手枷をされ、座り込む与一郎さんの後ろに、白銀の弧を描く男の姿。
東雲の白みと松明の篝火に光るその描く弧が、私は何だか理解できなかった。
そして次の瞬間、鈍い音と共に私の目の前に広がった深紅の世界。
夜明け前の薄明るさの中、その深紅は余りにも鮮やか過ぎた。
何が起こっているのか理解しようとしていると、私の足元に何かが転がってきた。
やや白目を剥いたその何かに、私は見覚えがあった。
これは「与一郎さんだ」、そう分かるのには大して時間はかからなかった。
私は叫んでいた…。
真っ赤な海に転がった与一郎さんの骸が、いつまでも私を見つめていた。
その場に泣き崩れた私の兎色の装束は、二つの紅に侵されていった。
そして私はその日、土に還った…。

             報告書(五)
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