乾坤ノ刻(肆)

 あれからどれ程時間が経っただろうか。
男達は依然として俺達を捜している。
いつまでもこうしてはいられない。
初秋の蒸し暑さが、俺達を容赦なく襲う。
いくら晩とは言え、茂みに二人隠れていれば自ずと汗が垂れてくる。
ダラダラと流れ落ちる汗を、俺は麻服の袖で拭った。
隣で聞こえる少女の吐息に、俺は自然と肩を抱いていた。
その柔らかな肌と、兎の様な息遣い。
少女の鼓動が、俺にまで聞こえている。
この少女は俺が守る。
月夜の茂みの中でそう誓う俺だった。

 与一郎さんの手が、私の肩にかかった。
私を安心させようとしているのがよく分かる。
その優しい手は、私の心、そして体もが安心できた
遠くで聞こえる村人の声や松明の明かりが、私達を包囲し始めていた。
もうここも捜されるのは時間の問題かもしれない。
私の肩は自然と強張っていた。
与一郎さんは私の肩をギュッと抱くと、こう言った。
 「走れるか?」
与一郎さんも見つかるのは時間の問題と分かった風だった。
私は静かに頷き、そして与一郎さんの中で藪から抜け出した。
ザワザワという音が、朧月夜に溶けてゆく。
村人達は、まだ私達には気づいていなかった。
そして私達は走った。
闇に溶け込むように、静かに。
近くまで行くと、流石に門前の男が私達に気づいた。
そして与一郎さんは鎌を持つ男に飛び掛っていった…。

             乾坤ノ刻(参)
             一覧
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送