乾坤ノ刻(壱)

 村の中心にある池からは、今でも祝詞が聞こえてくる。
村の男達による神への詞。
狂ってる……。
少女を平気で池に沈めて何が神への供物だ。
そんなことをして神はいからないのだろうか。
神とは、一体何者なのだ。
けれど誰にも問うことが出来ない。
神への猜疑心は、この村では死を意味する。
俺はいつも密かに、儀式に疑問を持っていたのだ…。

 次の日、隣村から数人の男達がやってきた。
どうやら八角村の男達のようである。
村の中心の神池の前で村の男達と何やら話し込んでいる。
恐らく次執り行われる八角村の儀式の話であろう。
池には未だ沈められたままの少女の亡骸が、ぼんやりと見えていた。
それを見ても、男達は顔色一つ変えずに眺めていた。
その人間の心を失った瞳に、俺は恐ろしさを感じていた。
恐ろしいのは神なんかではない、この男達の心だ。
儀式を行うことで自分達は神の加護を受けると思っている。
その加護により、十年余りこの酉竃村の繁栄は保たれてきた。
果たしてそれは真意なのであろうか。
生贄を捧げずとも村は繁栄したのではないだろうか。
村の繁栄の為の犠牲など、最初から必要無かったのではないだろうか。
村の繁栄に比べ、少女一人の命は小さなものだったのだろう。
今後も執り行われるであろう儀式に、俺は何とも言えぬ恐怖を感じていた。
そんな儀式は、六日後八角村でも執り行われる。
八角村は生き埋めの儀式らしいが、それも残酷なものだ。
だが俺一人にはどうすることも出来ない。
犠牲となった少女達の冥福を祈ること以外は…。

             乾坤ノ刻(弐)
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