走れない…
〜霊異編〜
廃墟好きな私が友達4人と廃墟巡りへ行った時のこと・・・。
真夏ということもあって肝試しも兼ねて夜中に廃墟へ行くことになった。
私は中山理沙、某女子大に通う18歳。今年中に彼氏をゲットする予定(?)
大学で出来た新しい友達4人と、S県の山奥にある廃病院の廃墟へ来ていた。
時刻は夜中の1時。辺りは真っ暗闇で、明かりなんかは何にも無い。
頼りない懐中電灯を一人ひとつ持っているだけ。
その明かりは、この暗闇の中では唯一の心の拠り所となる。
車で飛ばすこと1時間余り、鬱蒼とした真っ暗な森の中にその病院はあった。
何故か山奥に建てられたこの病院の廃墟は、寒いくらいの嫌悪感を抱く。
それを病院と言うには余りにも相違しすぎている。
今目の前にあるそれは、この世と霊界とを結ぶ狭間のような雰囲気だった。
圧倒される威圧感と冷徹なコンクリートの塊。
人間の産み出した創造物であることが、更に畏怖感を味あわせてくれる。 私たちは車を降りた。
美恵「ふぅ〜、到着〜!」
ここまで運転してきた美恵が大きく息をつく。
沙耶「なんか寒くない?」
加奈子「うん、真夏とは思えない涼しさだね・・・。」
車のエンジンを掛けたままなのでヘッドライトがホテルを照らす。
真夏だというのに半袖では寒いくらいに感じる。
標高もそんなに高くなく、周囲の森と不気味な雰囲気が寒さを感じさせるのだろう。
美子「それにしても、ホントに不気味な所ね・・・。」
両腕を擦る様に廃病院を見て言った。
私「それじゃあ早速準備して行きましょう。」
美恵「そうね、それがいいわ。」
美恵が車のエンジンを止めると、瞬時に辺りが真っ暗闇に包まれた。
各々懐中電灯を点け、装備を整え、その場を離れた。
長い間誰も踏み入れることが無かったのか、建物の周りには背の高い草が生い茂っていた。
その草を掻き分け、建物伝いに入り口を探す。
沙耶「本当にすごいところね・・・。」
加奈子「なんか鳥肌が立ってるよ・・・。」
私「もうここは何年も誰も踏み入れていないみたいね・・・。」
美恵「何も出なきゃいいけどね・・・。」
全員もう既に恐怖心が先立っているようで、なかなか先へ進まない。
結局病院の入り口は車を止めた所とは反対の裏手にあった。
途中、
トカゲ
やら大きな
蜘蛛
やらが私たちを出迎えていた。
何人かはそれを見ただけでもう一杯一杯の様子だった。
しかし此処まで来て引き返すわけにも行かない。
やっとの思いで嘗て玄関ホールだったであろう場所までやってきたのだ。
私「よかった・・・開いてたよ・・・。」
私が心配していたのは、玄関が開いているかどうかだった。
管理されている廃墟であれば入り口はほぼ間違いなく閉ざされている。
今回の廃墟は管理されていないらしいので、入り口も閉められていなかった。
不気味に真っ暗な闇をその扉を少し開けて覗かせていた。
美恵「じゃあ誰が最初に入る?」
加奈子「私怖いよ・・・。」
沙耶「私も嫌よ・・・。」
美子「うちも怖いよ・・・。」
私「・・・・・・じゃあ私が最初に入るよ・・・。」
みんなの視線を集めながら、私は古びた旧式のドアノブに手を掛けた。
心の中で膨らむ恐怖心を抑えながら、いざ病院の中へ入ってゆく。
5人全員入ると『バタン』と扉の閉まる音が闇の中に響き渡った・・・。
そこは凍りつくほど不快な場所だった。
湿度が高く、蒸し蒸しとする中カビの臭いが鼻につく。
辺りに散乱した遺留品が、暗闇にその翳(かげ)を落としている。
しんと静まり返ったそこは、痛いほど静かだった。
外の虫の声も聞えない、静寂の空間。
美恵「なんか内部は更に不気味ね・・・。」
沙耶「こんなところ、よく来る気になったわよね・・・。」
私「ねえ、どっちへ進む?」
エントランスからは
右
、
左
、そして
2階
へ続く階段と3方向に分かれている。
美恵「どうする? 2階へ行ってみる??」
美子「最初は1階から見ていこ?」
加奈子「じゃあどっちに進む?」
私「それじゃあ・・・まずは左から行こうか?」
誰も私の意見に反対しなかった。
一応この廃墟巡りの言い出しっぺの私がリーダーになっているからだろう。
とりあえず5人まとまって左奥へと進んでゆく。
前二人後ろ三人という隊列を組んで恐る恐る進んでゆく。
病院ということもあってその異様な雰囲気は半端なものではない。
嘗てここで何人もの人が死に至ったかを考えるとぞっとしてくる。
と、長い真っ暗な廊下の右手に「診察室」と書かれた部屋が現れた。
加奈子「診察室・・・なんか不気味ね・・・。」
美恵「入ってみよっか・・・?」
沙耶「私、怖いよ・・・。」
みんなが恐怖の余り入るのを躊躇っている間に、私は診察室の戸を開けていた。
美恵「理沙、入るの・・・?」
私「うん、一応全部の部屋に入ってみないと来た意味ないじゃない。」
美子「理沙は怖くないん?」
私「そりゃあわたしだって怖いわよ・・・。」
実際私もかなりの恐怖心に駆られている。
今までに味わったことの無いこの恐怖は、背筋を凍らせる。
診察室の中は意外にも小奇麗に片付いていた。
部屋の片隅に診察台や衝立が取り残されている。
懐中電灯で照らすと、その翳(かげ)を暗闇に落とす。
加奈子「それじゃあ、写真撮ろ。」
私たちは各部屋で一枚写真を撮るつもりだ。
一人がシャッターを切って残りの四人が写真に写る。
次の部屋ではローテーションでまた別の人が撮る。
こうして全部の部屋で写真を撮るのだ。
こういう場所ではかなり高い確率で心霊写真が撮れるものだ。
ポラロイドではないので、現像するまでは分からないのだけれど。
私たちは加奈子以外全員で診察台の前に並んだ。
加奈子「じゃあ撮るよ〜、はいチーズ!!」
『パシャ!!』
それから10分ほど探索していると「霊安室」と書かれた部屋の前に辿り着いた。
美子「霊安室だって・・・。」
美恵「だ、大丈夫だよ、だって今まで何も無かったじゃない?」
沙耶「でもここは霊安室・・・今までとはちょっと違うね・・・。」
私たちは結局霊安室に入ることにした。
重い扉は、嘗てはしっかりと施錠されていただろうけど今はその鍵も壊されている。
此処へ来た誰かが壊していったのだろうか?
地を這うような低い轟音と共に扉が開かれる。
そっと、中の様子も伺いながら開けてゆく。
寒風が吹き抜けるような寒気が私たちを襲う。
頼りない懐中電灯をみんな一斉に部屋の中へと向ける。
一見何も無いようだったけれど、よく見ると壁埋め込み式の棺がいくつかあった。
窓も無く、ただただ暗くじめじめした空間。
心なしか死臭が漂っている気がする。
私「ちょっとここは雰囲気が違うね・・・。」
美恵「やっぱり死体を安置しておいた場所だからね・・・。」
扉を閉めてしまうと真っ暗だけれどその圧迫感が全身で感じられる。
何者かに見つめられているような何とも言えぬ威圧感に皆が息を詰まらせていた。
美子「早く写真撮っちゃいましょ・・・。」
お互いにライトを照らす。
カメラを加奈子から美子へ手渡す。
今度は美子が写真を撮る。
4人が肩を並べ前二人、後ろ二人になって写真を撮る。
美子「いくよ〜、はいチーズ!」
美子が写真を撮ったらしいけれどフラッシュが焚かれていない。
私「どうしたの? フラッシュ焚いてないけど・・・。」
美子「それが・・・シャッターが切れないの・・・。」
美恵「美子、冗談はやめてよ・・・さっき加奈子が撮った時はちゃんと撮れてたじゃん・・・。」
美子「冗談なんかじゃないよ、本当に撮れないの・・・。」
沙耶「心霊番組でよくこういうのあるよね・・・。」
加奈子「やだ、ちょっとやめてよ気持ち悪い・・・。」
その後何度か試してみると3回目でやっとと撮れた。
私たちは言い知れぬ恐怖から早いとこ霊安室を後にしようとした。
ところが・・・・・・
加奈子「何これ・・・この扉開かないよ・・・。」
美子「そんな・・・。」
美恵「ちょっとやだよ・・・本当に開かないの・・・?」
私「開かないみたい・・・押しても引いても動かないよ・・・。」
沙耶「も、もしかして鍵が掛かっちゃったとか・・・。」
加奈子「まさかオートロックだったの!?」
私「それはないよ、この建物は20年以上前に放置された病院だし・・・。」
美子「それじゃあどうして・・・。」
私たちが扉の前で四苦八苦している時に、霊感の強い沙耶が何かを感じたようだった・・・。
沙耶「待って・・・今変な声が聞えなかった?」
加奈子「え? ・・・何も聞えなかったけど・・・。」
美恵「沙耶まで変なこと言うの・・・?」
沙耶「遠くで聞えたよ・・・女性の呻き声みたいのが・・・。」
美子「それって・・・霊の声・・・?」
5人全員が一斉に血の気の引いたのが分かった・・・。
傍から見てもその異様さには気付いたことだろう。
全員が静まり返り、耳を澄ませる。
ううぅ〜・・・・・・
確かに聞こえた・・・。
どこか遠くの方で・・・いや、意外と近いのかもしれない・・・。
蒼白になった皆は声を出すことも忘れ、只扉を開けてこの場から離れることだけを考えていた。
もうもみくちゃになり、何がなんだか分からない状況だったが、錠が外れたのか扉は開いた。
全員叫ぶことも無く走りだす。
どれくらい来たのだろうか、建物の端にやってきた。
ここまで来ると心も落ち着いてきた。
私「はぁはぁ・・・あれ・・・何だったんだろう・・・。」
加奈子「風かなんかだったんじゃない・・・?」
美子「でも人の声だったよ・・・絶対・・・。」
美恵「本当に霊の声だったのかな・・・はぁ・・・。」
みんな息切れさせながらも先程の声の正体について話す。
真っ暗な廊下で、壁に手をついて息を整える。
暫し皆が息を整えていると、何か違和感を感じた。
加奈子「あれ・・・? 沙耶は・・・?」
私「・・・いない・・・。」
美子「え!? うそ・・・。」
美子はそう言って見回すが、そこには自分含めて4人しかいない。
どうやら沙耶は自分たちとはぐれてしまったらしい。
こんなところで一人になっては、危険極まりない。
得体の知れぬ何かがいるかもしれない。
美恵「どこいっちゃったのかしら・・・。」
加奈子「捜しに行かなきゃ・・・。」
ここにいる全員の顔面が蒼白になっている。
余りの恐怖にもう一歩も動けない状態であるが、沙耶を放ってはおけない。
その思いはみんな一緒だった。
美子「じゃあ・・・二手に分かれて捜そうか・・・?」
美恵「それはやめたほうがいいよ・・・。」
私「私もそう思う。 みんなでまとまって捜そう。」
私の意見に皆従った。
こんな場所では二人ずつで行動するのは非常に危険だ。
なにしろ広い廃病院なのだから・・・。
呪詛編へ続く
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