『僕は無人島へ行きます』

 優しいメロディーの流れる、館内を、僕は歩いていた。
ビルの向こうに見える夕陽が、僕の影法師を館内に深く、長く。
手に取った本は、古ぼけていて題字もはっきり見えない。
静かに、その頁を開く僕。


 『僕は無人島へ行きます』


このくだりで始まっていたその本。
谷山航平という人が書いた本。
僕はその作者のことは全く知らなかったが、どこか親近感を抱いていた。

無人島……。
誰も居ない島で、一人ぼっちになる気分はどんなものだろう。
夕陽でキラキラ光るビルの窓を見ながら、僕は考えた。



そこからは、窓に映る夕陽よりももっと、綺麗で、そして耀く夕陽が見えるのだろう。
そこには、冷房よりも涼しい、爽やかな風が吹いているのだろう。
そこは、この街よりも僕を、強くたくましく育ててくれるのだろう。

僕の思いは、その本の無人島に夢中になっていた。
神様がいるのなら、僕はこれをお願いする。


 『僕を無人島へ連れて行って下さい』


椰子の茂るその緑の楽園は、ここからずっと遠い所にあるのだろう。
一度行ったらもう、二度とここへは帰って来れないかもしれない。
でも、僕は後悔しない。
僕の居るべき場所は……。

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