まどぎわの茶色いの

　オイラは猫。
結構なお金持ちの山下さんに飼われているごく普通の家猫である。
生まれた頃からこのご主人に飼われ、ずっと家の中で暮らしてきた。
大きな屋敷で、のんびりと毎日を過ごしているオイラ。
こんなオイラの楽しみは、食べることと寝ること。
そのお陰で今では体重も増加の一途を辿っていたりするのである。
今日もまた、お腹一杯食べてぐっすり寝るんだニャ〜。

そんなある日のこと。
今日はいつもいつも以上にご主人の奥さんの声が聞こえてくる。
その怒鳴るような声量にオイラは度々ビクっと寝ている所を起こされる。
これだけはさすがに勘弁してもらいたいものである。
起こされたオイラは悪いと思いつつ耳を澄ませて聞いていた。
「あなた、浮気してるんでしょ？」
「何を言ってるんだ？」
「知ってるわよ、あなたが若い女と夜会ってるって！」
「違う、会議で遅くなったって言っただろ！？」
「ウソ！ちゃんと証拠だって挙がってるんだから！」
またご主人が浮気をしたらしい。
毎度のことだけど、ご主人も懲りない人なんだニャ〜。
でもそんなご主人を、毎回許してしまう奥さんはお人よしなのかニャ〜？
こんなお二人に飼われ、オイラも毎日楽しく過ごしている。
ときどきお二人のケンカがイヤになる時もあるけど。
オイラはお気に入りのサイドボードの上で、まったり眠る。
何も無い毎日だけど、窓の外に見える緑と青の世界。
何もせずに、それをボーっと見ている毎日は、楽しいものである。

　オイラは猫、茶トラのマイペースな猫である。
そして今日も、奥さんの怒声が夢見心地のオイラの子守唄なんだニャ〜。

　　　　　　　　　　　　　終

　　　　　　　　　　　　短編頭頁