忌祓ノ刻(伍)

 それから少女達の姿を見かけた者は誰一人無かった。
己の運命から逃れ、遠くの僻地で細々と三人で暮らしていたのだろう。
生贄が失踪したことで、三村は蒼然としていた。
儀式を目前にして逃げた三人の少女。
神への供物を失った三村の人々は、神の怒りを恐れていた。
もうこの三村には生贄として捧げられる少女は居なかった。
五つ六つの幼い少女では、生贄として十分では無い。
かといって初潮を迎えた少女は穢れており、生贄には出来ない。
人の少ない三村にとって、儀式は大きな負担になっていたことは確かである。
けれども、儀式で村が繁栄してきたのもまた事実である。
神の加護を受け、諸悪から村を守ってきた儀式。
儀式がこの三村の運命を握っていたことは明らかであった。
人々は儀式に神を見出し、畏敬の念を込め崇めた。
森羅万象を掌る八百万の神に。
その神に生贄を捧げ、村の運命を託していた。
全ては神が村を動かしていた。
神が忌祓いを行うことで、村は存続してきたのである。
忌祓いこそが、三村の本質であったのかもしれない。
村の繁栄の為とあらば、少女一人の命は小さなものだったのだろう。
これまでに生贄に捧げられた少女の数は何百という数である。
その犠牲があって、三村はここまで繁栄してきた。
けれどもそれもここまでである。
生贄を捧げられなかったこの三村の運命は最早廃れるだけなのである…。

 それからと言うもの、三村は矢張り発展することは無かった。
急速に衰退していき、やがて滅びた。
人気の無くなった廃村は、ひっそりと後世に遺されていた。
そして明治の後期にもなると、その三村の存在を知る者は居なくなった…。

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