忌祓ノ刻(弐)

 八角村には、神への供物としてにえに人間を供える信仰がある。
その贄は穢れ無き乙女である場合が多い。
殊に初潮を迎える前の十二〜三歳の少女が最高の生贄とされている。
と云うのも、神へ穢れ有る物(鮮血)を供えると神が御怒りになる。
鮮血は不浄のものとされ、穢れあるものとして忌み嫌われている。
そして神は村に災厄をもたらすと謂われているからである。
よくある民俗信仰だが、その思想は起源はかなり古い。
此処八角村の他二村も、これは共通した思想を継いでいる。
今尚受け継がれる民俗信仰……。
その裏にある真実とは、果たして何なのだろうか………。

 瓢箪池にはおぼろもやがかかり、辺りは真っ暗だった。
その暗闇は、私を一層恐怖へと駆り立てていた。
村の儀式から逃れた私は、神代村へと向かっていた。
蝦蟇がまの啼く瓢箪池沿いに歩く。
松明も篝火も無い、真っ暗な道。
朧々とした月の蒼光だけが、すすきの繁る細途を照らしていた。
儀式のこえは、もう聴こえてこない…。

 神代村に辿り着いた私は、美代の家へと向かった。
美代とは、神代村の仲良しの女の子。
私と同じ十二歳。
七日前、私が儀式の生贄になると聞いてずっと泣いていた。
私が今頼れるのは、彼女しかいない。
丑の刻近いということもあって村は蕭然としていた。
美代の家の戸を静かに開けると、寝付いた家族の中に美代を見つけた。
寝付いている所を起こすのは気が引けた。
けれども私には時間が無かった…。
美代を揺すると、間もなく彼女は起き出した……。

             忌祓ノ刻(参)
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