忌祓ノ刻(壱)

 八角(やつかど)、其の由来は村の形而である。
村をぐるりと仕切る塀が八角形をしているからである。
八という数は、易の八卦からも窺える様に万物に通ずる数である。
易より派生した陰陽道も、その原理を継いでいる。
陰陽道の根付いたこの地の八角村
儀式の刻は、刻々と近づいていた…。

 シャン…シャン…シャン……
錫杖の鳴る音が聴こえてくる。
村のげき(男巫)四人が駕籠かごを担いでいる。
駕籠の中には、白装束を纏った乙女が一人。
その表情は、魂が抜けたかのように顔面蒼白。
覡は祓詞を唱え、錫杖を振り、村に隣接した因波神社へと向かっている。
闇が支配する杜の村に、篝火かがりびが数多燈っていた。
溽暑じょくしょ、新暦で言う九月である。
蒸し暑い空気が、神社をすっかり包んでいた。
鳥居の前の篝火は、炎々と煌々と榮えていた。
ゆっくりと歩を進めていた駕籠は、本殿前で止まる。
そして覡の一人が駕籠の蔀戸を開ると、少女が出てきた。
顔に頬白、口には紅を塗っている。
痩躯な体の白装束は、少女の端麗美を一層引き立てるものだった。
逃げるなら今しかない……少女はそう思った。
気付いたら走っていた。
夢中で、必死で、儀式から逃れる一心でずっと…。
覡達も追いかけて来る。
少女は、暗闇の中を只管走り続けた…。

 私は、やっとの思いで瓢箪池ひょうたんいけまでやって来た。
もうここまでは彼等も追っては来ないと思う。
儀式………神への供物……それが…私だった…。

             忌祓ノ刻(弐)
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