橙色の笑顔で


 雅博たちはその後海の家へとやって来ました。
昼時ということもあって店内はもう人でいっぱいです。
そんな中、何とか座る場所を確保できました。

信恵「なんとか座れたな」
雅博「うん、偶然空いててよかったよね」
美羽「あたし焼きそば食いてー!」
信恵「決めるの早いな…。 じゃ他のみんなは何にする?」
雅博「う〜ん、僕はラーメンにしよっと」
千佳「じゃ私カレー!」
茉莉「えっと…じゃあ私もカレーにする」
アナ「では私もカレーにしますわ」
美羽「それじゃああたしもカレーにするよ」
信恵「いやお前は焼きそばだろ?」
美羽「何勝手に決めてるんだよー。 じゃあいいよ、焼きそばで」
信恵「はいはい、じゃあ注文してくるな」

美羽の横暴にももう信恵は慣れたもので、すんなりかわしていました。
雅博はそんな信恵に今一度感心するのでした。

美羽「海の家ってマズイくせに高いんだよね〜」
千佳「みっちゃんお店の人に聞こえるよ…」
アナ「そうなんですの? 私海の家って初めてですので知りませんでしたわ」
雅博「へぇ〜、アナちゃんって海の家初めてなんだ」
アナ「はい。 海へ来る時はいつも別荘にいますので…」
雅博「べ、別荘!?」
千佳「アナちゃんちって別荘持ってるの!?」
アナ「はい、下田にあります」
茉莉「そうだったんだ〜、すごいね〜」
アナ「いえ、そんなことありませんわ…」
雅博「下田か〜、小さい頃僕もよく泳ぎに行ったなぁ〜」
アナ「え、そうなんですの?」
雅博「うん、だからもう下田は僕の庭みたいなもんだよ」

と、みんなが話に花を咲かせていると信恵が戻ってきました。
両手に持ったトレイには4人分のカレーが乗っていました。
雅博は手伝って自分のラーメンと美羽の焼きそばを取りに行きました。
これで全員分そろいました。
みんなで手を合わせ、いただきますをしました。

信恵「考えるの面倒だからあたしもカレーにした」
美羽「そんなんだからいつまでたっても彼ーができないんだよ」
信恵「ぶっ飛ばすぞこの野郎」
雅博「ま、まあまあ、折角の楽しい海水浴なんだし」
信恵「彼女のいるお前に言われたくは無いな」
千佳「ちょっ、お姉……」
茉莉「えっ、お兄ちゃんって彼女ができたの?」
アナ「そうなんですの?」
雅博「え、あ、いや違…くはなくて……えと…君たちみんなが僕の彼女みたいなもんだから…」

いきなりの信恵の言葉にどぎまぎする雅博。
まだ茉莉ちゃんとアナちゃんは千佳と付き合っているということは知りません。
そのことがばれないように今まで伏せてきました。
ばれてしまってもどうってことはありませんが、やっぱり恥ずかしい気がするのです。
雅博はそれとなく信恵を睨むと信恵は笑っていました。

千佳「このカレー美味しいね〜」
茉莉「うん」
アナ「はい、辛さも丁度いいですわ」
美羽「お前らは仲間はずれだ!」
信恵「何だよ、やぶから棒に」
美羽「あたしとお兄ちゃんは麺類だろ? あんたらはご飯だ」
千佳「ん、だから?」
美羽「だからお前らは仲間はずれだ!」
信恵「いやむしろお前らの方が仲間はずれだろ。 少数派だし」
美羽「なに!? じゃあいいもん、お兄ちゃんとラーメンズを結成するから」
信恵「いや、ラーメンズって芸人にいるし。 しかもお前は焼きそばじゃんかよ」
美羽「じゃ麺類ズにする」
信恵「あそ、勝手にしてろ」
雅博「僕も同感だね」
美羽「なんだよ、お兄ちゃんまで〜!」

美羽が立ち上がって叫びました。
でもみんなは無視して食べています。
美羽も誰も構ってくれないことが分かると何も言わずに焼きそばを食べ始めました。

千佳「あそうだお姉ちゃん、アナちゃんちって別荘あるんだって」
信恵「別荘!? マジで!?」
アナ「あ、はい」
信恵「へぇ〜、すごいな〜、やっぱアナちゃんちってお金持ちだよね」
アナ「いえいえ、そんなことありませんわ」
美羽「じゃあさじゃあさ、今度アナちゃんちの別荘行ってみようぜ?」
千佳「あ、私も行ってみた〜い」
茉莉「私も行きたいなぁ〜」
雅博「僕も行きたいな〜」
信恵「ちょっと待て、アナちゃんちの都合も聞かないと。 アナちゃん、どうかな?」
アナ「え、あ、えと…お父さんとお母さんに聞いてみないと…」
信恵「まあそうだよね」
千佳「じゃあ聞いてみて大丈夫だったらみんなで行きたいね〜」
アナ「では今度聞いてみますわ」

アナちゃんの別荘の話で、みんな楽しそうにしていました。
その後、みんな食べ終わるとまた海へと入っていきました。
信恵だけは肌を焼くとかでビニールシートの上でうつ伏せになって寝ています。
雅博は低くなり始めている太陽を仰ぎ見て海へと入っていきました。

千佳「お兄ちゃんもビーチボールであ遊ぶ?」
雅博「うん、いいね〜」
千佳「バレーみたく水面に落とさないようにするんだよ」
美羽「よし、じゃあいくぞ! せやっ!!」
茉莉「あ〜う〜…」

美羽は思いっきり飛ばしたせいでビーチボールは茉莉ちゃんの頭上を抜けていきました。
波に足をとられ、ビーチボールのところまで歩いて行けない茉莉ちゃん。
見かねた雅博はビーチボールを取ってあげました。

茉莉「あ、ありがとうお兄ちゃん…」

茉莉ちゃんにもいいところを見せられ、満足気の雅博。
その後何度も取り損ねたりしながら、みんな楽しい時を過ごしました。
30分くらい遊んでいると、みんな疲れてしまいました。
陸に上がり、さっき行った洞窟前の岩場へと行くことにしました。
みんなの笑顔は、ひまわりのように明るく輝いていました。

アナ「わぁ〜、ホントですわ〜、お魚がたくさんいますね」
茉莉「かわいいね〜」
千佳「うん、キラキラしててキレイだよね〜」
美羽「水族館行けばもっとキレイな魚たくさんいるのに」
千佳「またそんなこと言って…」
雅博「でもやっぱこういう魚とか見てると癒されるよね〜」
美羽「お兄ちゃんの場合癒されるのは魚じゃなくてあたしたちの水着姿でしょ?」
雅博「な、何言ってるんだよ…そんなこと無いから…」

またしても美羽に弄ばれる雅博。
その言葉に、雅博は改めて自分が小学生の女の子4人に囲まれていることを認識しました。
そう考えると今この瞬間はとても大切な時間であると思えたのです。
その後はじっくりと、みんなの水着姿を脳裏に焼き付けていた雅博でした。

夕方。
陽が沈み始めた頃、みんなは帰り支度を終えていました。
他の海水浴客もみんな帰り支度をしています。
楽しかった時間もこれでお終いです。
遠く水平線に沈みゆく夕陽を見ながら、雅博は哀愁を感じていました。

信恵「よ〜し、じゃあ帰るぞ〜」
千佳「は〜い」
美羽「もう帰るのか…もっと遊びたかったのにな…」
アナ「またみんなで来たいですわね」
茉莉「うん」

それぞれ荷物を持ち、橙に染められた砂浜を後にしました。
砂浜に残っていたのは、海水浴客の捨てた大量のゴミとみんなの思い出でした。

千佳「お姉ちゃん背中すごい焼けてるよ〜」
信恵「ずっと焼いてたからな。 でも凄いヒリヒリする…」
美羽「じゃあ背中に紅葉散らしてみたらどうなるかな?」
信恵「やってみな? お前の顔に紅葉が散るから」
美羽「お〜、怖っ!」
雅博「じゃあみんな着替えてきていいよ。 僕は車の中で着替えるから」
信恵「おう、荷物も積んでおいてくれるか?」
雅博「うん、了解〜」

車のところまで来ると女の子たちは着替えに化粧室へ行きました。
雅博はすぐに着替えると、荷物を積み込みました。
大した量も無かったので、みんなが戻ってくる頃にはもう荷積みは終えていました。

信恵「みんな乗ったか〜?」
美羽「まだちぃちゃんが乗ってないよ」
千佳「いや私もう乗ってるから!」
信恵「はいはい、分かった分かった。 じゃ出発するぞー」
雅博「それじゃあ帰りも道案内、お願いね」
信恵「帰りもか? まあいいけど…」

こうして海を後にした6人。
車内では、こんがり焼けた肌のみんなが今日の思い出を楽しそうに話していました。
洞窟でのこと、キレイな魚のこと、茉莉ちゃんの泳ぎの練習のこと。
雅博はそんな彼女たちの声を聞きながら幸せな気分に浸っていました。
けれども車で20分も走ると、後ろの4人はすっかり眠ってしまっていました。
そんな4人を見て、雅博と信姉は笑っていました。
今日一番の収穫はキレイな魚を見たことでも彼女たちの水着姿を見たことでもない。
4人の笑顔と寝顔が見れたことだと思う雅博でした…。


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